arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

太宰治『斜陽』感想

※以下ネタバレあります



読書は普段あまりしてこなかったので、反省しつつ本作を読みました。読了し、いたく心震わされ、何が感想を残さねばと思って、とりあえず書きます。
本作の登場人物は、恐ろしいくらい生きるということに真面目だなと感じました。かず子と直治は、生きることに意味を見いだすことに常に必死で、生きることそのものに苦しみ続けています。彼らはその事に自身の尊厳をかけているし、それ以外の楽な生き方を知らず、できない種類の人間なんだと思います。そして、その日々の中で直治は死ぬ権利を行使し、かず子は確信を得て意味を理解した、ということだったのかな…と。
思えば、彼らの求める生き方は母の姿であったのに、家が没落して本来辿り着けるべき姿に辿り着けないという虚無感、それ以外の辿り着くべきどこかを散々もがいても見出だせなかった直治の絶望は、計り知れないものだったでしょう。その中で恋と革命を目的に生きようとするも現実の冷水を直ぐ様ぶっかけられて、もはや熱を持つことすら否定されたかず子の絶望もまた。しかし、かず子はある種、冷めても生きていけるだけの何かを終盤では持っていた。それがかず子の強さなんでしょうが、母と弟と恋を失ったなかで刷り込まれたものだと思うと、それを希望と言って良いのか疑問を抱きます。
読んでいて、太宰さんの生に対する絶望の深さ、男という生き方への絶望、女という生き方への絶望と憧れが伝わってきた気がします。常に絶望にうちひしがれながら、けれど文章はとても切実で、ときに温かく、鮮明さに満ちている。読み手が登場人物とともに、というか、自分事として哀しみ、嘆き、怒り、愛するような感覚になる。真実の感情だけを摘み取った世界に浸ることができる。
しかしこんなに真実ばかりみて生きていたら、とてもじゃないけど生きられないと思う。読み手にはとてもこの作者を救うことはできず、ただ彼が読者の生に与えるばかりのような、そんな断絶を感じずにはいられませんでした。