arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

エルデンリング感想(クリア後ネタバレあり)

私は大学時代にFFとラストオブアスにドハマりしてから自称ゲーマーとして過ごしてきたのだが、社会人になってからは、割と固い仕事をしていることもあって、面白そうなゲームが発売されても正直手が出にくくなった。職場の飲み会でゲームが趣味だと言っても話が通じる人がいない(そしてちょっとバカにされる)し、自分でも「いい年してゲームなんて」と思ってしまう癖がつくようになった。

しかし、そんな表面的な社会性の殻を破り、140時間のめり込ませてくれるゲームに久々に出会うことができた。ELDEN RING(エルデンリング)である。

昨日無事エンディングを迎えたので、稚拙ながら本作の印象的だった要素をあげる形で感想を書きたい。

一応ストーリーに必須でないものも含め主なステージは全て攻略し、エンディングも複数みた上の感想なので、クリアまでのネタバレが全開なのはご注意ください。ただ、宮崎さんの作品は1から10まで説明するタイプの作品ではないこともあり、本作の全体が理解できているわけでは全くない。そのため、考察と妄想を含め書くが、愛はあるのでご容赦いただきたい。

 

<圧倒的な世界観とその提示の巧みさ>

(おそらく本作のシリーズの系譜の一つである)ブラッドボーンをプレイした時も感じたことだが、宮崎ディレクター率いるフロムソフトウェアの作品は世界観の完成度が高すぎると思う。この世界ではどういう種族、道具、宗教、病があって、過去にどんな出来事があり、それが原因で誰が何をしているか、というのが驚異的な密度で形作られている。しかもそれがとても魅力的なものであるということが、様々な種族の行きかうリムグレイブの広大な大地とそびえたつ黄金樹によって、最序盤から説得力を持って提示される。

にもかかわらず、終始それらを全て把握できている誰かが全体像を説明してくれるわけではなく、プレイヤーはただそこらにある建築物やアイテムや書物やボスの語りから、その世界観のピースを少しずつ自分で埋めていくしかない。行く手を阻むボスはみな強敵だらけなので、さながら凄く旨い餌を散りばめられたサバイバル場に迷い込んでしまったかのような気持ちになる。でもリエーニエの湖や、魔術塔や、ローデイルの城を囲む木々や、ケイリッドの血を煮詰めたような赤い沼や、何より高くそびえたつ黄金樹のビジュアルが美しすぎて、この世界の謎を知りたくて仕方なくなってしまう。その吸引力を生み出すデザインワークの巧みさは他に類を見たことがない。

個人的に、特に印象的だったのはシーフラ河で、建物の中に井戸があり、その井戸が驚くほど深くまで続いていて、底まで降りて少し進んで上を見上げると一面の星空が広がっている、という光景には思わず息をのんで魅入ってしまった。まさかあんな地下深くに降りた先にこんな広大な世界が広がっているとは。というか地上だけでめちゃくちゃフィールド広いのに、地下にもこんな広大な世界観広がってんの!?と度肝を抜かれた。しかもそこにあるのが滅びかけの王朝や宮殿だったりするので、なんで地下にこんな発展した建造物があるんだ?とか、この宮殿だれを祀ってるの?とか気になってどんどん奥に進んでしまう。

本作にはそんな瞬間が数えきれないくらい沢山ある。オープンワールド作品全体で言えば、大分前から沢山のAAAクラスのタイトルが作られているし、グラフィックが現実より綺麗な作品ばかりになってきている。それはそれで凄いんだけど、あまりに沢山出すぎて正直ビジュアル面でちょっと食傷気味になっているプレイヤーが多いと思う。けど、本作についてはプレイ中ビジュアルに見飽きるということが一瞬もなかった。それどころか、こんな景色見たことない、というようなロケーションが凄く多く、最初から最後までとにかく魅力的な世界を歩き回って自分の目で見たな、という感覚を与えてくれるのだ。この点が、本作の圧倒的特別感の一つだったと思う。

 

<徐々に掴めてくる人間関係のエモさ>

そして、そんな荘厳で説明の少ない世界だからこそ、たまに理解できるキャラクターの関係性や熱意に思わずグッと胸を掴まれてしまう。これが個人的に感じた本作の特別感の2点目。あんまり「エモい」というと軽くとられてしまうかもしれないけど、他の端的な表現が思いつかなかった。

主人公は喋らないしキャラメイクも自由なので、RPG要素としてキャラクター性を楽しめる部分は、主に作中に登場するNPCキャラクター達との会話や、彼らについて知ることができるアイテムの説明文によるところとなる。しかし、前述のとおりそもそも世界観の情報がまちまちにしか入手できない中で、みんな黄金律がどうとか、二本指がどうとか、一般的には使用されないこの世界ならではの単語を連発するので、キャラクターのイベントを進めても中身を伴って理解できる部分は割と少なかったりする。しかし、だからこそたまに理解できるキャラクター同士の人間関係や熱意みたいなものが出てくると、それが何倍もの魅力をもってエモく感じられてしまうのだ。

その代表が、ラニイベントではないかと思う(以下ガッツリネタバレ)。

ラニはフロムゲーにしては(?)珍しい誰が見てもかなり可愛い比較的普通の女の子寄りの造形だが、イベントの中で、実は最も神に近いデミゴットであることが明かされる。さらに、彼女が神になる運命を期待されながらそれを自らの意思で拒み、それがきっかけの一つとなって狭間の地が壊れかけているらいしということ、そのラニの選択を、本来神に仕えなければいけない従者であるブライブが、ラニ個人への忠心で支え続けていることがわかり、ラニはイベントの最後に、ブライブと、同じく彼女を支えたイジーへの想いを言い残して消える。この流れの全てがエモい。エモすぎる。殺伐とした世界観や意味のわかりにくい単語の渦に飲まれて理解を放棄しかけていた中でこういう直球のエモい球を投げられると、もう刺さりまくってラニとブライブとイジーが大好きになってしまうのも仕方ない。(セルブスは…うん…)

また、ネットの感想だとあまり見ない気がするけど、個人的にはラニイベントと同じかそれ以上に刺さったのが、ミケラとマレニアの関係。マレニアは本作のデビュートレーラーからずっと象徴的に登場する女性剣士で、見た目の格好良さから発売前から大人気だったが、いざ本作を進めると、ケイリッドの腐敗やラダーンの哀しい現状や、マレニアの分け身(?)ミリセント姉妹の過酷な運命などは、全て彼女がラダーンとの対戦で腐敗を爆発させたことが原因だったのでは、ということが分かる。本作は腐敗による影響を各所で描いでいるので、この点だけ見るとマレニアは諸悪の根源になってしまうのだが、ミリセントのイベントを介すると、マレニアがマリカ=ラダコンの子として神人であり次の神になれるはずの存在でありながら、生まれながらに腐敗を身に宿しそれに苦しんできたこと、それでもなんとか腐敗を内に沈めて抗ってきたこと、永遠に幼い体を強いられた兄ミケラを守るべくミケラの刃となったこと、ラダーン戦でその腐敗を解き放たなければ負ける状況になり、(おそらくミケラを守り続けるため)腐敗を解き放ってでもラダーンと相打ったこと、などが概ねわかってくる。

一方のミケラも、神人として黄金律を継ぐことを期待されながら、それが妹のマレニアの腐敗を癒せないと知って別の新しい律を作ろうとしたり、マレニアを大事に想っていたらしいことがほのめかされている。ミケラは人を魅了できる力があったようなので、ミケラを愛する人が多いのは納得だけど、ミケラから誰かへの想いへの描写が少ないので、この点が割とはっきり祈祷テキストで書かれているのは本意なのだろうなと。

とすると、このきょうだいは神から生まれて神になるはずだったが二人とも体に大きな欠陥を抱えていて結局神になる道がなく、他方で出自から色んな信仰やら寵愛の対象にされ、本人たちはお互いを想いながら生きてきたが、離れ離れになり二人ともかなり悲惨な経緯を辿る、ということになる。マレニア撃破後のmy dearestというセリフや、多大な犠牲を生んでもただ一人を待つというセリフ、ミケラが最強であるマレニアすらも超える恐ろしい力を持ちながらなぜモーグの妄想に従っていたのかなどを考えると、この二人の関係性も非常にエモいような気がしている。ミケラは特に作中最重要人物っぽいのに全体像なり本人のセリフが実際に出てこないので、DLCなどで補完やその先の話が出る可能性はそれなりにあるのではと思う。

ちまたでは影が薄いといわれるメリナについては、ミケラ説があるようで、確かにメリナの服がマレニアの部屋のそばで見つかったりミケラの魂自体はどこかにあるはず(かつどちらも右手薬指に指輪をしている描写がある)ので、それがメリナだという可能性は結構あると思う。だとするとメリナは影が薄いどころか、プレイヤーが能動的に読み解かないといけない最重要人物ということになるか。ミケラは作中もっともおそろしい存在とされているので、彼女を狂い火エンドで静かに激昂させてしまっている事実は非常にやばいということもわかってくる。復讐のデミゴットとなったメリナが主人公を見つけ出して戦いになる展開とか、ありえてもおかしくない。

他にも魅力的なキャラクターが多数登場するし、エルデンリングはぱっと見の印象より人間味あふれる作品だなという点が、プレイしてみてのいい意味で予想外な部分だった。これは完全に邪推だけど、他の作品ではあまりみないようなデザイン性や実は感情が重かったり狂気に歪んでいるキャラクターも多く、なんというか、フロムゲーは各作品で新しい性癖みたいなものを開拓するノルマでもあるのかな、と思ったりもした。

 

<攻略における手数の多さ>

最後に言い尽くされたことかもしれないけど、やはりアクションゲームとしての面白さに振れないわけにはいかない。本作の難易度はかなり高いと思う(レベルをかなり上げても被ダメージがそれなりに高いのでミスが続けば必ず死ぬし、スタミナとFPでゴリ押しの制約がある)。しかし、解決のための手数がとにかく多い。魔法、祈祷、遺灰、戦技の種類の多さがすさまじく、付け替えも比較的簡単でコストがそんなに高くない。明らかに色んな戦法を試さないと勝てないような敵も多く、これは過去作と比べて近接だけでなく色んな方法を試してほしいというメッセージなのか、アクションが苦手な人にも最後まで遊んでほしいという趣旨なのかわからないが、いずれにせよ遊び方の幅が格段に広がっていて面白い。しかも魔法や祈祷、遺灰、戦技の多くに世界観に繋がるエピソードがあり、特に祈祷と遺灰は重要キャラと繋がっていたりもするので、実際に戦闘で使わなくても収集したくなるように構成されていて巧みだなと思った。

アクションのために武器や術があるというよりも、この世界観だとそういうものがこういう経緯で生じる、という部分まで作られていることが分かる分、それを使っているときに自分もこの世界の一員だという感覚が深まるのだろう。

また、ボス戦も面白いものが多かった。個人的に特にゴッドフレイ(霊体的なほう)とマレニアが楽しかった。マレニアは人生で一番苦戦したかもしれないというくらい沢山戦って、辛かったが、先にミリセントイベントをやっていたこともありマレニアの人物像がある程度わかった上で挑むと、ついに、という熱さで辛さよりも興奮やワクワク感が勝った。あと火の巨人。苦戦して、勝った直後震えがとまらなくなって驚いた。

 

ロードオブザリングファンにとってのエルデンリング>

最後に、世代的にどうしても書きたいので、映画ロードオブザリングシリーズのファンとしてエルデンリングが如何に待ち望んだゲームだったか、ということを書きたい。

2000年付近に日本でも大ヒットしてアカデミーも総なめにしたロードオブザリングという映画、今の10代20代がどのくらいみてるかわからないけど、自分はドンピシャ世代で中高生くらいのころドハマりしていた。おそらく、合戦を伴うファンタジー作品が実写として大スケールで映像化されたのはロードオブザリングが最初だったと思うし、映画ロードオブザリングのビジュアルがなければ、その後のファンタジー大作のビジュアルは全然違ってたと思う。当時この作品を見ながら私は、この世界観で自分も馬とか乗ってデカい敵と闘えたらな~と思っていた。エルデンリングが、その夢をかなえてくれた。

エルデンリングでリムグレイブの森を走り抜けているとき、巨人の足元を馬に乗りながらズバズバしているとき、魔法でドラゴンと戦っているとき、火の窯の縁に立った時、「あれ?これってあれじゃん、あの頃夢見てたあの感覚じゃん!」と何度も思った。

他のファンタジーゲームでは感じたことがない感覚だった。他のゲームにはない、この世界観の密度とビジュアルだからこそ、そう思ったんだと思う。何よりうれしかったのは、夢見てた時のイメージよりもさらに凄いビジュアルや自由度の中でその感覚を味わえたこと。きっと、同じように本作で夢がかなった人は結構いたんじゃないかな、と思う。

 

長くなったけど、以上がクリア後の感想です。本当に面白いゲーム、いやゲームを超えた作品として最高の時間を過ごさせてくれた。最高すぎて2月以降若干生活に支障もでるくらいだったけど、そこまで自分の中でプライオリティの高い作品と出会えたことがとにかく嬉しいし、欲を言えばこれからもこの世界観をさらにいろんな形で楽しみたい。スタッフ、キャストの皆さん、本作を作ってくれて本当にありがとう。DLC、いつまでも待ってます。

 

 

2021年 見てよかったおすすめ映画5選

今年ももう終わりということで、今年出会えて凄くよかったな~!という映画5選を書きたいと思います。大きなネタバレは避けていますが、テーマ性などには触れているのであしからず。

 

1、プロミシング・ヤング・ウーマン

 とても重く面白い映画。主人公の女性が、ある復讐のために男性たちを誘っていくという展開なのだけど、その後ろにある鋭い問題提起により、「男性陣のノリ」が行き過ぎたときに生じる罪と、それにより犠牲になるものの価値を描き出している。重いテーマだけどとにかく脚本も構成も緻密で全く無駄のないテンポのいい進み。かつポップなので、鬱屈とせずにのめり込んで魅入ってしまった。

 主人公は加害者の男性たちに沸騰するほどの怒りを抱いているけれど、その怒りと失ったものの哀しみに、ある意味依存しているようにも見えるのが辛かった。復讐される男性側について、過去の軽い気持ちでの行動により今の幸せな生活が影響を受けていくので、見る人によっては復讐される側のほうが可哀想と思うかもしれない。でも、その軽いノリのつもりで、若気の至りでやったことが人の尊厳や未来を奪う以上、その罪を軽く見せてしまう「ノリ」や「若気の至り」ほど悪質なものはないな、と感じずにはいられなかった。ちゃんとその事実を見ろよ、という挑戦的映画だった。

 

2,由宇子の天秤

 真実の追求をモットーにするドキュメンタリー監督が、自身の身近で起きたある出来事をきっかけにその出来事の真実を覆い隠さなければならなくなり、自身の心情とその他の大切なものとの間でなんとかバランスをとろうするがどんどん追い詰められていく…という話。真実を追求するのが自身の役目と信じて疑わないまっとうな主人公は、他者が真実を隠そうとするとそれを容赦なくあぶりだすのだが、自分や家族にいざその状況が降りかかると、それを隠すしかない、それしか選択肢がないということに気づく。この作品のとても面白い点は、正義と悪が対立しているのではなく、主人公の正義心と良心が対立してしまう展開に持って行ったこと。外野にいる人間はたやすく正義の側に立つことができるけれど、渦中に入ってしまえばどちらかに立てば何かが失われるという状況を次々に突き付けられ、正義に立つためにはもう一方の重要な何かを捨てなければならなくなる。そしてその選択はフラットに選べるものでもなく、たいていどちらかを選ばざるを得ない状況になってその構図を理解することとなる。その苦しみや悩みは、外にいる人間がとやかく言えることではないのに、外の人間の声が大きい時代になってきて、渦中にいる人間はますます追い詰められていく。現代社会の構造をあぶりだした秀逸な作品だと思った。

 また、この映画が春本監督が自分でお金を集めてその予算内で撮った作品というのもすごかった。それこそ外の意図や圧力に、自分の描くものを曲げさせないという強い信念と、そのためにおそらく自分の生活の安定とか多くのものを切り捨てたのだろうという覚悟を感じて、頭が下がる思いだった。

 

3,ドライブ・マイ・カー

 最近賞レースにどんどんのっていてオバマ大統領も今年見た映画何選にあげてたくらいなので、作品が素晴らしいことは多くの人が認めるところなんだと思う。

 とても演劇的なやり取りを尊重した映画で、演劇をやったことがある人や好きな人にはたまらない映画だと思う。難しいやり取りの積み重ねで、じれったさとかフラストレーションが溜まったところに、ふとした瞬間に素朴な会話ややり取り、表情のギャップなどとてもわかりやすい温かみを差し込んでくるので、その些細なシーンがグッときてしまう。特に孤独な人、哀しみの中にいる人に、寄り添うような映画。

 岡田将生さんが本当に素晴らしく、特にあるシーンで長いカットのはずなのに一瞬も瞬きしたくないというほど引き込まれてしまった。助演男優賞をとるべきだと思う。純粋さの中に闇や葛藤、諦観を含めた高槻というとても難しい役柄だったが、高槻そのものにしか見えなかった。

 

4,機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

 ガンダムは個人的にはロボットものというよりも、移民モノだと思っている。地球に人類が住みきれなくなって棄民政策として宇宙に放り出された人類がその後どういう流れたどったかを、各段階を生きる葛藤を抱えた主人公やその周辺人物を通して描いているコンテンツだと思うし、そこにとても価値深いものを感じている。

 本作は地球連邦軍の超優秀な軍人ブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノアが、テロリストとして彼の思想をもとに人々をけん引していく話だが、1作目にあたる本作では、彼の素朴さ、テロリストであり英雄の息子であり一人の男である存在としての葛藤が印象的で、自分の考えを信じて疑わないような人物像や反体制の正義に燃えるような革命家とは一線を排したその素朴さに好感を抱けた。ミステリアスだが諸さの目立つ少女ギギなど、魅力的な人物が多く、何より絵があまりに緻密でなめらかでゴージャスで見ごたえが凄かった。村瀬修功監督のファンなので、絶対見に行こうと思っていたけど、あのとても紳士的なキャラデザインやデフォルメされない骨格など、写実的なアニメーションが好きな人にはごちそうのような画面だと思う。Dolbycinemaの音が素晴らしかった。

 

5,エターナルズ

 多分映画史に残る映画だと思う。マーベル系列の映画は正直去年まで全く興味がなく、あぁ、アメコミヒーローものね…みたいな感覚だったのだが、最近のマーベルがいかに全世界レベルで人の価値観を動かすために映画というコンテンツを最大活用しているか、ということを知ってからは、何か大きな社会的クリエイター集団のような捉え方をするようになった。

 エターナルズはその最たるもので、主役のヒーローが10人くらいいて、みんな人種がバラバラ、しかも手話で会話する人がいたり、同性愛者がいたり、精神に病を抱える人がいたりして、それらがスーパーパワーをもって連携しながら宇宙からくる敵を超格好良く倒していくのである。その構図がもう自分の中に潜在的にあった偏見をぶち壊してくれる感じで心地よく、その関係性や各自が色々な国で生活する姿が本当に魅力的なのだった。

 人間の愚かさを描くシーンで、なんと第二次世界大戦中の日本におけるあるできごとが描写される場面があり、このシーンをよくアメリカ映画で出せたな…と本当に驚いた。アジア人やアジアにルーツのある人が世界に出ていくことって、こういう影響があるんだ、ということを気づかされて重要な発見だった。これほどの超大作だと、こういう描写は絶対配給元と揉めると思うのだけど、脚本の方と監督のクロエジャオの尽力で通ったらしい。クロエジャオ監督は、このあまりにも多様な要素を1本のエンタメに(しかもオタクチックに)まとめきれるというのはすさまじい実力だと思った。ぜひ2を作ってほしい。

 

その他にも質の高い良い映画にたくさん出会えて充実した1年間だった。ありがとう2020年。

【ドキュメンタリー要約】RBG最強の85歳

ドキュメンタリー要約を始めることにしました。

昔から、世の中に数多あるトピックについて網羅的に把握してその核心を理解したい、という欲が強かったのですが、30年弱生きてきた中で、今のところドキュメンタリーはそのニーズに最もマッチする媒体だと感じています。

報道番組はその日時周辺の情報を断片的にしか伝えないし(おまけに多くの場合圧力がかかっているし)、新聞の社説は内容が短い場合が多いし、ネットの情報は真偽の裏がとりにくいし、関連書籍は詳細だが読むのに時間がかかる。一方、ドキュメンタリーは大抵1~2時間程度でそのトピックの概要と主なポイントが関連映像・関連者の発言などを交えてまとめられていて、非常に効率が良いです。勿論質が悪いと言いたいことが散漫だったり無理にストーリー付けされて事実が分かりにくかったりしますが、最近特に視聴しているBS世界のドキュメンタリーNHKスペシャルなどはどれも質が高く、かつグローバルで多種多様なトピックを取り上げてくれます。で、そんなドキュメンタリーを見て学んだことを後から思い出せるように記録しつつ、同じようなものを求めている人にとっての参考になればという趣旨で、ドキュメンタリー要約を始めることにしました。

タイトル、製作年、制作国(メディア)、概要、要点をシンプルにまとめるだけですが、これからドキュメンタリー見る度に書いていきたいと思います。 

 

〇RBG最強の85歳について

<概要>

 米国最高裁ルースベイダーキンズバーグ判事の生涯と功績を前後編1時間半にまとめたもの。昨年87歳で亡くなったこともあり、世界のドキュメンタリー選で放送。

 製作は米国の女性監督ベッツィ・ウェストとジュリー・コーエン、配給ファインフィルムズ。

 

<要点>

・性格

 RBGは学生時代から控えめな性格でじっくりと考えるタイプ。議論でもあまり発言せず、じっくり聞いて重要な点だけ発言する。法律の仕事が大好き。趣味はオペラ鑑賞で、仕事を忘れ歌の素晴らしい世界に没頭できることが魅力とのこと。

 

・功績

 ハーバード・コロンビア両校のロースクールを優秀な成績で卒業したにも関わらず、女性であったためNYの法律事務所に受け入れられず、ロー・クラークとしてキャリアスタート。ロースクール教員やアメリカ自由人権協会の法律顧問になり、女性への差別が人種差別と同様に存在することを訴え、憲法修正第14条を根拠に女性差別違憲の判決を勝ち取る。その後も複数の女性の権利に関する訴訟で勝訴。60代で最高裁判事に就任し、中絶の禁止を定めた州法の改正へ貢献したほか、バージニア州軍事学校への遊学者を男子に限定する規定を違憲とする判決を手掛けた。

在職中から2種類のがんと闘病し、87歳ですい臓がんの合併症のため死去。闘病中もトレーナーをつけて筋トレなどを行っていた。

 

・夫マーティン(弁護士)

 彼女を公私で支え続けた生涯のパートナー。RBGと異なり社交的で、真逆の正確にもかかわらずRBGと相性が良く、最高裁判事指名についても彼の働きかけが候補者の中で22,23番目だったRBGを1番にのし上げた。RBGが忙しいときにもご飯の時間になると事務所から彼女を連れ帰るのが習慣だった。2人の子供の世話も2人で分担し、料理はマーティンが担当。

 

・意見が真逆な立場の人との関係

 同時期に最高裁判事で最も保守だったのアントニン・スカリハは、リベラル派のRBGとは法廷での意見が真逆であったが、プライベートで非常に仲が良く親友だった。一緒にオペラを見に行くことも。スカリハ曰く、「彼女はオペラが好きで、良い人。嫌いになる理由がない。」とのこと。RBGはスカリア氏が亡くなった際、哀悼の辞として以下述べている。「(二人が一緒に出演したオペラで)『お互い違っていても私たちは一つ』というデュエット曲を歌います。お互い違うのは法律の解釈であり、一つなのは憲法最高裁に対する尊重でした。」

 

最高裁判事指名の経緯

 クリントン大統領時代に、上記のマーティンの働きかけもあって、RBGはホワイトハウスクリントン大統領と面会した。大統領のインタビューの中で、指名の理由について以下の通り述べている。「15分程度話をした時点で彼女を指名すると決めた。大統領と弁護士としてではなく、お互い一人の人間として、これからの法がどうあるべきか、という意見を率直に交わせた相手だったからだ。」

 

・裁判官としての公正公平と法廷外での影響力

 それまでのキャリアでずっと、法的に冷静な意見を述べ続けてきたRBG。しかしトランプ大統領に対して、「ペテン師」と珍しく感情的な発言を表明した。これについて、事後に謝辞を述べ、何も言わないことが賢明だった、と話している。法廷内でも最高裁判事として多数の反対意見を述べ、その反対意見は非常にSNS等で注目されていたが、法定外での発言も強い影響力を持つようになったRBG。しかし、裁判官として公平性を尊重すべきとインタビューで語っている。また、オバマ大統領のうちに辞職して後任を指名させるべきという意見に対しては、全力で職務に臨める間は職に就き続けるし、そうでなくなれば辞職する、と答えている。

 

 

 

 

 

 

2020年印象的だったエンタメ、本など

〇漫画

進撃の巨人

 人類の本質を追求する作品の深みに、毎回深く感動している。

 自分の追う自由のために究極の選択をしたエレン、良心のもとに集う精鋭たち、彼らの背負っているものは凄く壮大なのに、人間関係は個人的で、その2面のスケールがとてもスッと溶け込んでいて、何重にも読み応えのある作品。リアルタイムで終える時代に生まれてよかったなぁと思う。最近始まったアニメfinalseasonも本当にすんっばらしいですね。。。MAPPAさんありがとう。。

・呪術廻戦

 夏油というキャラクターに独特の人間くささがあって、五条過去編くらいからハマってきた。人間の悪意ばかりのなかでも光る良心が描かれていて、そこが魅力的だと思う。呪いを払い続けるマラソンゲーム、というセリフが結構心に残っている。

暁のヨナ

 読んでみてびっくりだったのが、凄く読みやすくて面白い戦記もの・政治ものであるということ。主人公3人のお互いに抱く気持ちが、時間とともに変化していって、ヨナとスウォンがどういう最期を迎えるのか、とても気になっている。脇役たち(各国のメインメンバーやヨナを支える従者たち)も皆それぞれの信念や葛藤を持っていて魅力的。その中で、最新刊まで圧倒的格好良さを放つ主人公ヨナがとても見ていて気持ちいい。

乙嫁語り

 上質な大人買いをしたいときはぜひこの漫画を。愛すべき人物たちと、愛すべき文化、そして愛すべき人生。胸がジーンとする場面が非常にたくさんあった。勧めてくれた友人に感謝。

・アクタージュ

 マツキタツヤ氏は漫画原作としては間違いなく唯一無二だったとおもう。残念で残念で本当に仕方ない。今年はこの件で数か月気分が落ち込んでしまった。

 本来なら、実際の大河では実現しがたい幻の大河を実現し、様々な女優の凄みを出す展開、そしてその先に墨字が本当に作りたかった映画を魅せる展開が待っていたんだと思う。景や千世子のこの先が見れないことが年の瀬になっても悲しい。しかし、それを仕方ないと思わせる、とても哀しい出来事だったと思う。

 

〇アニメ

プラネテス

 驚くほどいいアニメだった。宇宙産業の発展の中で宇宙デブリを拾うという地味で冷遇された仕事に誇りをもって取組む大人のドラマだった。どのキャラクターも皆共感できる感情の流れで、特にハチが夢のために人格が変わっていく様や、タナベが愛でどうにもならない問題に直面した時の行動には深く感動した。フィー、ユーリ、クレア、エーデルなど、わきを固めるキャラクターも複雑な過去や重いを抱えていて魅力的だった。

鬼滅の刃

 こんなにコンテンツが社会を経済含めて席巻するなんて、新しいコンテンツの希望を見せてくれた凄い作品だと思った。人の想いを信じ切る強さが原作に詰められているからこそ、多くの人に届く作品になっているのだと思う。

 

〇映画

・パラサイト~半地下の家族~

 ポンジュノ監督のファンなのでとても楽しみにしていた作品だったけど、想像以上に、今までの監督の作品の中で一番エンタメしていた。映画の画の面白さ、展開の面白さ、キャラの面白さ、社会風刺の面白さ、を詰め込んだ巧みな映画。オクジャやスノーピアサーの時は、先に社会へのメッセージ性が前面にでた物語性だったけど、今作はその前にエンタメを持ってきたような印象だった。匂いで人間の格差を表現したり、愛で人間の共通性を描いたり、どれも本当に巧みだった。

・ストーリーオブマイライフ

 4人姉妹全員が本当に素敵な、力強い生き方で魅力的だった。シアーシャ・ローナンラブリーボーンの頃からとても美しく聡明なイメージのまま大人になって、この作品では力強さや自分勝手さなんかも魅力的で、目が離せなかった。しかしその4人を立たせつつ圧倒的魅力を放つティモシー・シャラメ。彼が何より最高だったと思う。

・レディマエストロ

 女性指揮者の物語。たまたま近くのミニシアターでやってて見ただけだったけど、とても面白かった。女性同士の友情、夢に集う仲間、世間との折り合い方、孤独な葛藤、と見どころが多く、強い輝きを感じた。セットや美術もどこか懐かしい感じで温かかった。

・1917 命をかけた伝令

 全編ワンカットなのに場面転換が多く場面ごとの印象がどんどん(時にファンタジックなものにさえ)変わっていくという、驚異的な映画。映画史に残るであろう作品なので、見てよかった。

・MOTHER

 母親と息子の物語。はたから見たら、なんでこんな母親と、と思うけれど、本人たちにしかわからない関係や気持ちはある。ただ、それを理解することの困難を始終感じさせられた。

 

〇本

論語と算盤

 「逆境に立たされた場合、どんな人でもまず、「自己の本分」だと覚悟を決めるのが唯一の策ではないか」という一文が最近身に染みている。そしてそれは、心の平静さを保つためなのだと。

・働き方5.0

 現代を生きる人全員が読むべき本ではないかという気がする。

 これからの社会はどうなっていくのか、そのなかでどう生きればいいのか、の選択肢は大きく書いてある。自分で考えて生きるか、誰かの流れの一部になって生きるか。結局は、そういうことなのだろうけど、そのどちらにも乗れないリスクというのを、今後の社会は強く抱えている、という危機感と、それにより生まれる新しい社会への期待の本。

・ファクトフルネス

 事実をみれば、人類は進歩している。

・5色の虹

 対戦の時代に、満州に設立された国際教育機関。社会の光が当たらなくとも確かに価値深い人々がいた、ということを、緻密な取材により実感することができる。日本人が知るべき事実。

 

〇ゲーム

ファイナルファンタジーリメイク

 オリジナルやったことないけど、単純に面白かった。FFってやっぱり、キャラの華やかさと、彼らが挑戦する物語に魅力があるんだよなぁと感じられた。続きが楽しみ。

the last of us part2

 全エンタメの中で今年最も印象的な作品だった。ユーザーを楽しませることよりも、価値観を揺さぶることを重視する作品作り。これだけの大作で、相当な投資や各企業の事情もあっただろうなかで、クリエイターの作るべきと思っているものが尊重されてユーザーの手に届いたという事実に感動した。

 1つの行動だけからはその人の人間性の本質はわからない。けれど人と人が接点をもつのはその1つの行動からなわけで、それが悲劇に繋がることもある。そして一度最悪の行動をきっかけに出合った者同士は、お互いの人間性を知ってもなお、わかりあうことが難しい。その現実の中で、赦しがどうしたら生まれていくのか。それを描いた作品だったと思う。

 

今年はメジャーエンタメが多くなってしまって、ニッチエンタメに触れる時間が短くなってしまったことに反省。そういう部分に関心を向け続けることを来年はしっかりやりたい。1年間お世話になりました。

ラストオブアス2感想(ネタバレあり)

クリアしてから数週間、ずっと本作を引きずっている…。凄いゲームだった。

ゲームでできる体験として、最大級のもの得たように思うので、感想を書いておきたい。

ネタバレしないと内容が何も書けないため、もしまだクリアしていなくてこの文章を読もうとしている方がいたら、ここで引き返してください。

 

 

以下、ネタバレありです。しかも長いです。

 

 

1、率直な感想

 まじか、の連続だった。前作を数年前にプレイして、「ゲームでこんなに情緒的なストーリーを描けるんだ!」と感動し、数年前からのPARTⅡのプロモーションを見まくってゲームプレイ動画も見まくって発売日は有給も取ってワクワクしながら本作を始めた身としては、まず冒頭の3時間で衝撃をうけた。いや、正直に言えば、発売前から若干予感はしていた。プロモーションでは、「ジャクソンで穏やかな生活を送っていたエリーだったが、ある事件でディーナを殺され、復讐の旅にでる。途中でジョエルが追いかけてきて、二人はちょっとぎくしゃくしながらも復讐の旅を続けていく。果たしてその結末は、、、」みたいな感じだったじゃないですか。でも前作をプレイしていれば、エリーがそんな直情的な人間じゃないことや、「復讐は何も生まない」という普遍的なことや、何よりこの世界がどんなに残酷かってことくらいわかっているはずで、ポッとでのヒロインを殺されたくらいで復讐のためにこんなに残忍になるわけない気がする。でも本作のテーマは復讐らしい。じゃ何のために復讐するんだろう。エリーがそんな残虐になってまで復讐する原因って、、、あれ、、、?一個しかなくね、、、?という、そこまでは発売前に思考が進んだんですが、まぁさすがに、前作の主人公を殺すようなことはしないだろうと思って、この予想はまさかで終わると思ってました。

 で、ふたを開けてみたらそのまさかが現実になってて、めちゃくちゃ驚いた。何に驚いたって、ジョエルが死んだこと自体に驚いたのではなく、それを本作の序盤でやり切ったスタッフに驚愕した。だってジョエルだよ?みんなジョエルに愛着があって、ジョエルに前作でめちゃめちゃ感情移入してたから、最後のあの展開を受け入れて、ラスアスは名作だ、という感想になっていたわけですよ。それをどこの馬の骨とも知らないマッチョ女に撲殺させるというね、これをやるノーティドッグ凄いな、というのが率直な感想でした。それと同時に、本作、本気だなというのを冒頭3時間で痛いほど感じました。このシリーズを全て懸けて、1作目で得た評価とかもすべて懸けて、ノーティドッグはこのPARTⅡの物語を全力で描いてくる。そういう凄みのようなものを感じました。

 ラスアスの一番の魅力は、個人的には「没入感」だと思います。証明・音響・グラ・舞台設定・キャラの表情・セリフ・ロードを極端に排除した演出など、あらゆる要素が、プレイヤーをプレイキャラクターに一体化させる要素として作用していて、気づいたらプレイキャラクターと同じ人格のように話にのめりこんでいる、というのが本シリーズの最も突出した特徴だと思います。PARTⅡでは、その特徴を最大限に生かし、前半のエリー編で、ジョエルを殺されたという恨みをプレイヤー自身が強く抱きながら復讐のためにWLFやセラファイトを殺し、アビーたちを探していくこととなる。けれど、ジョエルのことを思い出すたびに、それについてくる負の記憶、すなわちジョエルがエリーを救ったことによる結果にまつわる記憶と、エリーがそれを知って得たジョエルに対する憎しみ、もセットで思い起こされる。アビーたちへの憎しみが深まり復讐がエスカレートするほど、ジョエルが殺された必然と、自分だってジョエルを否定したという事実に向き合わざるをえなくなる。この矛盾した状況がどんどんエリーの精神を分裂させていき、ディーナやジェシーといった本作の良心を司る存在たち(=エリーの中の良心をつなぎとめる存在)との距離感もおかしくなってくる。そして、その良心をなんとかつなぎとめていたもの(ディーナへの労り、妊娠しているディーナを一番に考えなくては、という想い)が、復讐相手であるメル=妊婦の殺害で一挙に破綻する。この流れは本当に、見事だと思った。妊娠相手(ジェシー/オーウェン)がそばにいる状況まで完全に一緒という徹底ぶり。プレー中はそんなに整理して展開を整えることもできなくて、とにかくディーナの妊娠に驚いたりちょっとジェシーに嫉妬したりアビー憎んだりで感情がせわしないんだけど、水族館でメルのおなかを見たときは、自分もエリーと同じく混乱して、越えてはいけない一線を意図せず越えてしまった恐怖におののいた。こんな感情をここまで切迫して得る経験は、実生活ではまずない(今後もないと思いたい)。現代でもっともこの状況に置かれた人間の感情を体験できるのが本作なのではないかと思うくらい、凄いものをノーティドッグは作ったな、と実感したし、とにかくこの「経験」が苦しかった。

 そのままどうなるのかと思いきや、まさかのアビー少女時代に場面転換。これまで「ジョエルの仇」として憎んできた分、アビーが普通の女の子だというのがわかるだけでもちょっと辛かったが、何より辛かったのは、そのお父さんがかなり聡明な人物だと知ったこと。シマウマを助けて、仕事もちょっとサボったりして、娘を愛していて、人類を救う努力をしていて、かつその方法を導いた凄い人だった。これがわかるたびに凄くつ辛かった。だってこの人、前作のラストでプレイヤーとして自分がモブのような扱いで殺した相手だったから…。前作のジョエルの行動は、世界を救う道を閉ざしたこと、多くの人類にとって希望になっていたファイアフライのボスやメンバーを殺したこと、だと認識していたけど、それがこのシーンでより詳細化されて突き付けられる。ジョエルの行為によって、アビーの父親たちの努力も覚悟も全て水の泡になったし、ファイアフライは希望としての価値を失って崩壊し、その結果世界はヤバい勢力が争う状況になって、多くの人がこれらの勢力の恐怖に怯える日常になって、アビー個人は、復讐に生きるようになった。この流れが自然すぎて、そらジョエル殺されるわ…と思わざるを得なかった。もちろんアビーの撲殺を肯定するわけではないけど、物事の流れとして、ごく自然なことだったんだ、と。自分はジョエル側の見方で見ていたから、理不尽で憎むべき撲殺だと思っていただけだったんだと。

 ここからは凄く難しくて、プレイヤーとしての自分は、アビーの復讐もエリーの復讐も自然な流れだけどそれを果たしても精神は晴れないしまた復讐という自然な流れを新たに生んでしまうし、だからもうそれによって心身をすり減らすのは辞めたほうがいい、端的に言えば、エリーは復讐をやめてもうジャクソンに戻ったほうが良い、という気持ちになったのだけど、エリーはそうはならなかった。その理由が、「アビーを憎んでいるから」というよりも、もっとずっと複雑で、PTSDにより精神状態が悪く通常の生活に戻り切れないという現実的な問題と、ジョエルの記憶が「殺されたジョエル」であり続けてしまって、「エリーが好きだったジョエル」にならなかったということにあるのが、本作が非常に突っ込んだポイントだったと思う。

 普通に復讐を描くなら、アビー編のラスト、「二度と私たちの前に顔を見せないで」で終わっていい。あそこでエリーが懲りたなら、それはそれでプレイヤーとしてはある程度納得のエンドだと思う。けれど本作がそうしなかったのは、復讐に取りつかれることの心身の影響の色濃さを描くことで、単なる「復讐は何も生まない」という結論を超えたかったというのがあると思うけど、もう一つ重要な点として、ジョエルとエリーの物語として、そこがLASTではない、と考えたからなんだと思う。

 本作のテーマは「復讐」らしいけど、これはおそらくエリーのアビーに対する復讐よりも、エリーのジョエルに対する復讐のことをより強く意味していると思う。エリーがジョエルの最後の行動にいかに絶望していたかは、本作の回想シーンでわかる。おそらく、育ての親であるマーリーンを殺したことについても、何となく悟っていたのではないか。その上で、エリーのジョエルに対する復讐は、実は本作スタート時点の前に一旦終結の兆しをみせていて、その落ち着きどころが、「一生許せないけど、許したいと思っている」というセリフそのものだった。でもタイミング悪くアビーがジョエルを殺し、ジョエルへの復讐の終結=赦しはそこで一旦断絶し、アビーへの復讐として新たに別道にそれながら進んでしまった。これを、レヴへのアビーの態度や、アビーが受けた仕打ち、自分自身が復讐のために犠牲にしたもの、そして最後の浜辺の戦いで、「エリーが好きだったジョエル」が浮かぶようになったことで、赦しの結末を自分で選択することができ、断絶していたエリーのジョエルに対する復讐自体も、憎しみの感情はフェードアウトして、赦しという結末を迎えられた、ということだと思う。最後のシーンは、ジョエルへの赦し、というより、むしろ喪失感とちゃんと向き合い始めた(赦すはずだった対象を失ってしまって、ジョエルをただ想っている状態)だったのかもしれない。おそらく、これがエリーとジョエルについての、真のTHE LAST OF USです、ということなんじゃないかと。

 私は本作はもの凄い傑作だと思う。人間関係を描く物語として、これ以上ないくらい、2人の人間の関係性を突き詰めている。そんじょそこらの作品でこれをやられても、おそらくここまでの密度にはならない。本作は、1作目の高い評価に起因するノーティドッグ社の作品作りへの信頼と、1作目のストーリーやキャラクターに対するファンの愛情と、プレイキャラクターを転換し長時間その状況に没入させるゲームという媒体の特殊性と、クオリティ追及のための十分な時間や労力と、リスクをとれるスタッフ陣がなければ成り立たない。その要件がそろった中で、この作品を作るという選択をしたノーティドッグやSIEはめちゃめちゃ凄いと思うし、そのゲームをリアルタイムでプレイできたことに、本当に感謝しかない。

 

2、その他思ったことをつらつらと。

・暴力について

 本作、前作以上に人間相手の戦闘というか暴力が多くて、その表現の生々しさが際立っていた。その中でも、アビーとエリーの暴力は結構似ていて、同じようにサイレントキルのための首切りや窒息、速攻の目つぶし、感づかれる前に殺すためのヘッドショット、見方を盾に取った脅し、などをしている。暴力ってそれを楽しもうとする側面がなければ、だいたい極めると同じところ(最も効率的な方法)にたどり着くのかなというのは本作でちょっと感じた。あと、残虐性も二人とも似たり寄ったりで、そういう描写によっても、二人の何が善悪なのかがわからなくなってくる仕組みが秀逸だったと思う。

・ゲーム性

 戦闘は単純に、不謹慎だけど面白さが大分前作より増していると思った。やはり大きいのは、ほふく前進や、ほふくしながらの攻撃ができるようになったことだと思う。あとサイレントの攻撃手段が増えたこと。特に強化した4倍スコープとかはかなり面白い要素だと思う。犬もやっかいだし、適度に嫌な部分を盛り込む技術が秀逸だった。

・良心

 これは裏テーマなんじゃないかな、と思うくらい、本作は良心の観点から見てもストーリーに説明がつくと思う。相手の良心が見えてしまうと、憎しみが減る、又は憎しみを行動に移すのに躊躇が生じる、というのは、普遍的なのではないかと思う。エリーもアビーも、少女時代を見ているプレイヤーには、根が良い人たちなんだということがわかるようになっている。だから少なくとも自分は行為が残虐でも二人を嫌いになれなかったし、もっとこの二人にとってあるべき関係があるんじゃないか、と思わずにいられなかった。それにしても良心の塊だったジェシーの死はショックだったな…。アビーにとっては、吐くほどのショック(オーウェンとメルの死)をうけて乗り込んだわけだから、ジェシー殺すのもわかりはするんだけど、しかしジェシー、不憫で…。良心といえば、前作では街までつくって良心の塊っぽかったトミーが、本作を終えてもなお唯一復讐に取りつかれていそうなあたり、皮肉な話だと思った。

・3本の指と蛾

 正しい解釈はわからないけど、3本の指=ギターを弾けなくなった=ジョエルとの別れ、ということなのかなと思った。蛾は明らかにファイアフライ(蛍)との対比だと思うけど、じゃあ本作では何が光で何が蛾か、というのは一概にわからなかった。同じ虫でも蛍は綺麗で、蛾は醜い、というのも、面白いモチーフだなと。飛び方が定まらないところを見ると、復讐相手(精神の拠り所)が光で、それを求めてフラフラになりながら飛び続ける蛾が復讐者かなぁ。

 

3、今後

 本作には賛否両論あるとはいえ、こんな凄いゲーム他に知らないので、できれば続編を見てみたい気もしつつ、エリーにはもう、しばらくゆっくり休んでほしい気もする。今回のことを超えて、エリーはより聡明で優れた大人になると思うし、JJ(ジョエルとジェシーってことだよね?)の今後も気になる。もしPARTⅢがでるならやりたいし、出ないなら、本作は凄い体験として生涯自分の中にしまっておきたい。

 

以上、読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

ファイナルファンタジー7リメイク感想

 1、ストーリーネタバレなし感想

 オリジナル版はプレイしたことがなかったけど、FF自体は9以降コンシューマーのナンバリングは全部やってるので、当然のように発売日に買った。クリア時間は約45時間。オリジナルを複数に分割して制作しているとのことで、これはその一作目として、ミッドガル脱出までを描いている。とはいえ、プレイした感覚としては、ナンバリング最新作を遊んでいるような感覚で、作りは非常にゴージャス。

 FFはストーリーが強みのわりに最近そのストーリーの描き方がデコボコしている感じで、入り込みずらいなと感じていたので、ちょっと不安だったけど、遊んだ感想としてはここ数年のFFの中では一番バランスが良く、面白かったと思う。ストーリーのネタバレは避けつつ、感想のために以下良いと思った点と悪いと思った点を書きたい。

 

〇特に良かった点

 ・バトルが抜群に良い。本作で一番良かった要素だと思う。アクションベースでありつつ、実際触ってみるとコマンド式の感覚が強い。キャラクターの移動と通常攻撃は自由だけど、特殊攻撃、魔法はすべてATBを消費する。そのうえ雑魚敵であっても通常攻撃だけのごり押しでは効率的に倒すことができないよう、各モンスターの特性や動きが工夫されているので、基本は通常攻撃はおまけで、ATBのたまっているキャラに切り替えてどうコマンド操作するか、というのをバトル中ずっと考えながらプレイする構造になっている。アクションベースというとFF15が思い出されるけど、15のときは仲間との連携やシフトブレイクくらいしか面白みのある変わり種がなく、キャラ変更もできないので通常攻撃と魔法のくりかえしで正直飽きが早かった。この点、FF7はコマンドの役割を高めつつ、キャラごとの特性をプレイヤー自身で自由に切り替えて楽しめるようになった上、敵キャラの特性も非常に明確化されたので、遊びの幅も戦略性も広がって、最後まで飽きることなく楽しめたという印象。

 正直、発売前に公開されていたアプス戦動画だとそれがよくわからなくて、見た目にはただアクションコマンドを操作してるだけみたいに見えて、しかも結構長いので、これ戦闘すごいつまんないんじゃ・・・と思ってしまった。けど実際そのアプス戦をやってみると、まず事前の戦略練りの段階でマテリア組むのに悩むし、各部位を適切に削りつつHPを管理するには誰をメイン操作するかも意識しないといけないし、ライフが多い分ブレイクしたときにどう畳みかけるかなども考えつつ各キャラのATBやLIMIT状態を管理しながらブレイクに持ち込まないといけない、という具合で、考えることが多い。それを考えつつプレーするのが楽しめるタイプの人には、かなりやりがいのある戦闘システムになっていると思う。

 キャラごとの特性やストーリーに合わせたバトルメンバーの入れ替えも無理がなく、クラウドは一人オプティマのようなイメージでブレイブとアサルトを切り替えて戦うのが(というかカウンターが)楽しいし、ティファは固有アビリティがとにかく強い。バレットは武器ごとに△のアクションが変わるのが特色で、エアリスは強い魔法攻撃力を活かした戦いが魅力、など。どのキャラも均等に触りごごちが良く面白いので、バトルでいろんなキャラを操作するなかで愛着がわき、ストーリーにも入りやすくなる、という理想的な流れになっていたと思う。

 ・バトルBGM 闘う者たち、格好いい。テンションが上がる。原曲ももちろん良いんだろうし、浜渦さんと鈴木さんという安定のコンビで音がおしゃれになっている。インタビューを見る限り、今回お二人はオリジナルのファンに凄く気を遣いながら制作していた印象だけど、幽霊ステージの音楽とかは凄く雰囲気が良かったと思う。

 ・ストーリーについては、初見なのでオリジナルプレイ済みの人とは感想が違うかもしれないけど、まずアバランチの行動は普通に考えてかなり理解しがたいと思う。ただ、マリンや中盤以降の展開で、神羅の実態が見えてくるにつ入れて、徐々に感情移入しやすくなっていくし、魔恍使った発展というテーマ自体は現代に通じる部分が多々あるので、もっといろんな文脈でこのテーマに切り込んでほしい。FFの強みがストーリーでありつづけるなら、プレイヤーを信頼して深く突っ込んだシナリオを提示するというのも必要だと思うし、リメイクをプレイする層の年代がそれなりに上だと考えれば、そういうストーリー面の発展も多くのユーザーが求めているんじゃないかな、と感じている。

 あと、ストーリーというよりは、今回会話を書いている人のセンスがいい印象で(無駄に頭が高い言い方になって申し訳ない)、FFキャラにありがちなポエム感とかいきなり感とか滑ってる感がなく、普通の面白い会話が多くて、それも非常に良かった。後半のバレットは特に秀逸だったと思う。

 

〇特に悪かった点

 ・ダンジョンの量増し要素が面倒くさい。街とかでおつかいする分には、一個一個それなりに中身も考えてあるしバリエーションも工夫しているのでまだ楽しめるんだけど、ダンジョンであそこを操作してここの敵を倒してまたここを操作、という流れはワンパターンなものが多く、せっかく派手な演出で高まったテンションをダレさせてしまっているように感じた。

 ・バトル中のロックオンがコロコロ移り変わる。これはマジでアップデートで改善できるならしたほうがいいと思う。まずロックしてるのかしていないのかの表示もわかりにくいし、ロックしてもいつの間にか別の敵に替わっていることが多すぎて、一体を集中攻撃したいときはその機能が非常に邪魔になる。これはストレスフルで残念だった。

 ・チャドリーのバトルレポートの重要さをもっとアピールしてほしかった。これは自分が悪いのかもしれないけど、これやってないといくつかの重大なバトル要素が手に入らないので、ちょこちょこ進めていかないと作品の楽しみの一部が味わえないままクリアしかねない。終盤それにやっと気づいて数時間みやぶるをやり続けたりしたけど、結構きつかったので序盤からちょこちょこやることをお勧めしたい。 

 

↓ (こっから下はストーリーネタバレあり感想になります)

2、ネタバレありあり感想

・エンディング、キャラクターをちょっと知ってればかなり「おおっ!?」となるカットが多く、続きがめっちゃ気になった。

 ザックスのシーンはどういうことなのかなぁ。エアリスが今作すごく魅力的だったと思うので(幽霊のところのくだりは「??」って感じだったのでもう少しわかるように書いてほしかったけど)、エアリスやザックスの今後がどうなっていくのか怖くもあり楽しみでもあり。

 プレジデントの終盤のセリフ(なんも考えてないんだろお前らみたいなとこ)や、市長の目立ちたい欲はシンプルだけど本質的な部分で面白かった。というかアバランチが魔恍炉を爆破したのは明らかにテロだよね。あれを支持するのはなかなか難しいし、主人公側があれをやるスタートというのも、中々挑戦的だなと。そのあとさらにプレート落としをやった神羅の上のほうがクズだというのはわかりやすかったけど、一部真面目な層もいるようなので、彼らの動向が楽しみ。というか、ああいう決定を普通に通しちゃう組織がインフラになってるって時点で、あの世界は大分やばいと思う。アバランチが解決策になるともあまり思えないので、内部のマトモな層に本当に頑張ってほしい。

・バトルは、ルーファウス戦が面印象深かった。初見で剣戟がことごとくカウンターされるのは笑ったけど、スキをついて魔法を打ち込んでひるませていくという感覚がまさにアクションで面白い。ラスボスのバハムート3はかなり苦しんだけど、FF13-2を若干思い出して懐かしさもあって、楽しかったです。

 

3、今後どうなるんだろう問題

 素朴な疑問と願望をまとめてみた。

 ・タイトルどうするんだろう。

  リメイク2、3、4、という感じなのかな。個人的には、サブタイつけたほうがか

  っこいい気がするけど、普通に2かな。

 ・バトルどうするんだろう。

  今作のバトル非常に良いバランスだったけど、さすがに毎回同じだと飽きるだろう

  し、かといって根本的に変えることも難しいだろうから、次作でどうなるか非常に

  楽しみ。

 ・そもそもこれいつ完結するんだろう。

  これが最大の疑問。3部作になったとして、このペースでいくと一作3年はかかるだ

  ろうから、完結するころには2026年とかになっている。もし5部作とかだったら

  2030年も超えるくらいになりそう。そのころにはスクエニの内部人事もプレイヤー

  の事情も色々かわってるだろうし、なかなか難しいのでは、、。個人的には、スト

  ーリーのペースを早めて細部の量増しや省いてもいい演出は省いてどんどん進めて

  もらえると嬉しいけど、どうなるんだろうか。

 

いずれにせよ続きを楽しみにしてます。

life is strange2 感想

1、ネタバレなし感想

 ローカライズしてくれたスクウェアエニックスに感謝しかない。本当に。ずっと待っていたので日本発売が発表されたときはものすごくうれしかった。社会人になると、こういう好きな作品が本当に日々の支えになると実感しますね。

 本作、マックスもクロエも出ないけど、間違いなくライフイズストレンジの精神を引き継いでいるので、1が楽しめた人はぜひプレイすることをお勧めする。1をやっていない人も、ここから入って全く問題ない。

 どういう部分がライフイズストレンジの精神だと感じたかというと、まず主人公になっている感。主人公の親しみやすさや、日常の何気ない動きから入る作品の質感から、気づけばマックスやショーン(本作の主人公)と感情を共有している。このシリーズは、それを自然にできるところが凄い。だってマックスはアメリカの女子高生で、ショーンはアメリカの男子高生(メキシコ系アメリカ人)で、普通の日本人プレイヤーには体験できないような文化の中で生きているから、なかなか感情移入のハードルが高いはずなのに、本作はどこか景色も家も、家族も懐かしく感じる。そういう部分が、ゲームという没入感の高いメディアの魅力であるし、本作はそれを存分に生かしていると思う。

 前作と大きく違うのは、前作がアルカディアベイという主人公が住む町でおこる一連の出来事だったのに対し、本作がひたすら「逃げ」の旅であり、景色も出会う人もどんどん変わる、ということ。そのなかで、ショーンを通して人の優しさや怖さ、差別、恐怖、壮大な自然、そして家族との絆を体験することになる。出てくる人物たちはとても魅力的で、その人たちと、現実世界じゃ絶対にやらないだろうな、というような経験も色々する。普通のゲームでは描かないだろう際どい部分にもかなりトライしていて、そこもまた新鮮。個人的には、特にEP4以降で、会話や周りの人々の生き方に引き込まれたし、結末もそれまでの時間をふまえるととても意義深いものだった。

 ぜひ、いろんな人にプレーして、ショーンとしてこのゲームでの出来事を経験してほしい。

 

 

2、ネタバレしかない感想 

 未プレイの方は読まずにぜひ作品をプレーしてください。

 また、本作は選択によって展開が変わるので、あくまで以下の感想は自分がプレーしたときの展開や結末についてだけ書いています。

 

 

 感情を重視するストーリー。1のときもそうだったけど、今作も、最終的なトゥルーエンドと思しき展開は、客観的には、ハッピーエンドではないと思う。前作は最後マックスがクロエを見殺しにする(つまり何もしないで親友を失う)というもので、外形だけ見たら、この物語をへても経なくても変わらないものにみえる。でも、プレイヤーはその選択をせざるをえない理由をわかっているし、その間にあったことが決して無意味なことではない(むしろ唯一無二の時間だった)ことを知っている。今作も、結局ショーンは、現実をうけいれ、自首する。なら、最初から自首すればよかったじゃん、と思う人もいるのかもしれないけど、ショーンになってこの時間を過ごしていれば、その間に色々なことがあって、無駄じゃなかったことをわかる、という仕組みになっている。

 特に大きかったな、と思うのは、兄弟の絆が確固たるものになったことと、母との和解、そして旅の中での出会いを経験できたこと。それがなければ、ショーンには絶望しかなかったし、刑務所をでても、待っていてくれる人がいなかった可能性が高い。この旅を通じて、ショーンは心の支えを得たということだと思う。

 終盤、ショーンは悪くない(事情があってやってしまった)んだけど、自分の置かれた状況を弟のために背負った。この辺りは、正直刑罰って何だろう、誰を裁くためにあって、何のために裁くんだろう、と凄く考える部分だった。悪い、悪くないっていうのも、例えば日本だと刑法に基づいて行為を基準に決めていくけど、それって個々の事情は裁判官の裁量まかせになっていいのかな、とか非常に考えさせられた。その人に非がない場合でも、家族と離れさせてまで罰を受けさせるということが、それ自体とてつもなく罪深い気がして、いったい罪と罰って何だろうなと。

 道中へて、ジャーナリズム、人種差別、性差別、移民のミクロの現実、薬物と金と生活など、現代社会の知らなかった部分をショーンを通してごく一部だけど経験できた気がする。特に差別を受ける側の理不尽、罪を着させられる側の苦しみ、を味わい、心底怒りがわいた一方で、それを現実として受け入れるしかないむなしさを感じた。

 そんな経験をさせてくれた本作に心から感謝するし、DONTNODは素晴らしいクリエイターたちだとまた確信できた。ローカライズして届けてくれたスクエニのスタッフの方々にも感謝したい。いいゲームに出合えてよかった。