arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

劇場版響け!ユーフォニアム『届けたいメロディ』感想(2回目追記しました)

1、作品について

 響け!ユーフォニアム2を、久美子とあすかを軸に再構成した劇場版。

 

2、ネタバレなし感想(シーンのネタバレとかはないですが、見る価値を伝えるべく普通の総集編との違いは書きます)

 ゆーて総集編やしな、と思って見に行きましたが、これは総集編とは言わんわ(笑)

 大胆な構成変更、大幅な新規カット、新規アフレコ、演奏シーン大量、BGMほぼ全変更等によって、あたらしく一本の映画として生まれたという感じでした。初見さんも見て一本の作品として凄く楽しめると思うし、テレビシリーズを見た人も新たな視点で見て新しい感動や幸福感を得られる作品だったと思います。

 というか、序盤からよくぞここまで構成思い切ったな…と驚きました。監督英断だったと思います。初監督でこれだけ思い切れるって凄い。

 ユーフォはある種、久美子とあすかの物語で、テレビシリーズを久美子視点とすれば、この作品はあすか視点といえると思います。それぐらいあすかについてしっかり描かれていて、見終わった後あすかへの印象が少し変わりました。

 演奏シーンの臨場感や格好よさも増していて、これはぜひとも劇場で(できればいいサウンドの劇場で)多くの人に見てほしいです。自分は川﨑チネチッタのlivezoundでみて、音の迫力に心躍り、ユーフォの音色の優しさに酔いしれました。演奏シーンの新規カットも想像以上で、かつ物語の中で凄く意味づけがしっくりきました。

 テレビシリーズのときともまた違う、とても満ち足りた気持ちになれる映画でした。

 もう一回見に行きたいな。

 

 

 

3、ネタバレ全開語り

 

 

・冒頭

 原作のプロローグの部分をさらに膨らまして描いていましたね。少女あすかからのプロヴァンスフル、この流れだけでもう劇場に見に来てよかったわ、という感じでした。指紋がついちゃう描写が原作時からすごく好きなので、入れてくれて感謝しかない。

 小1あすかの川沿いで友達と歩いているシーン、あすかにもこういう時代があったんだなぁと気づかされつつ、やっぱりどこかみんなの中にいても孤独がある感じで。家でも一人で本を読んでる生活、こういう幼少期を過ごしていたら、そりゃ届いたユーフォにドキドキするだろうなぁと納得しました。仕草がいちいち可愛くて、そのあとのコンクールどうでもいい発言を見ると「ここ十数年でどうしてそうなった」と少し切なくなりました。

 

・母親

 今回の映画で一番驚いたのは、あすかと母親の家でのシーンが追加されてたことです。普段は、普通に親子なんだなぁと。あすかは親の分も晩ご飯を毎日作って、母親もはやく帰ろうと娘のために一生懸命外で仕事して、そういう親子の情がある二人だけの空間がいつも続いているんだなと。その一方で、自分のペースで話す母親と、あすかの親に気を遣うふるまいから、2人の距離感もつかめて、少し棘もあるシーンでした。

 あすかの母親も、あすかのため、という善意で毎日頑張ってるんですよね。それが娘にとっては枷になっているけど、枷と言っている本人も、そういう態度が正解じゃないことくらいわかっているはずだし、母親に対する感謝や娘としての感情は確かにある。だからこそ父親のほうに心を尽くすことが後ろめたく、母親との関係を悪くしているユーフォとどこかで区切りをつけなきゃいけないと思っていたのかなと感じました。

 

・模試

 全国模試を受け取って、結果を見て一瞬嗚咽するシーン。ユーフォシリーズで唯一あすかが明確に泣いたシーンでした。飄々としてるようで、全力だったんだな…、と。泣き声だけ凄く素のあすかで、でもそういう感傷を自ら一瞬で振り切って歩き出すあたり、強い子ですね…。あすかがどういう生き方をしていきたいのか、どういう姿勢でいたいのかが見える場面でした。

 

・演奏シーン

 全部良かったんですが、個人的に追加シーン満載の宝島フルがめちゃくちゃ好きでした。全体的に不穏な空気のある流れだったので、このシーンは音楽本来の明るさや楽しさが全開で、より一層輝いて見えました。追加の後半部分は曲自体楽しいし、モナカ含めみんな楽しそうに生き生きと演奏していて、見ていてウキウキしてしまった。滝先生も心なしかスマイルが全然粘着じゃない(笑)きっと根っからの音楽好きなんでしょうね。コンテが山田尚子さんだそうで、改めてやっぱすげぇなこの人…と思いました。

 追加シーンで、バリサクソロ後の晴香のアイコンタクトに対して、あすかがわーお、みたいな身振りでおどけて見せるんだけど、それをうけて晴香がキリッとした表情で向き直るシーン、めちゃくちゃ良かったです。晴香の表情がマジで格好良かった。今回の映画、主役は久美子とあすかだけど、晴香も魅力が爆発してたと思います。部員として、同期として、部長副部長としてではなく、演奏者同士の対等な関係や矜持のようなものが感じられて、輝いてたなぁと。

 プロヴァンスの風は曲自体哀愁と格好よさみたいなのがあって、ずっとフルで見たかったので歓喜しました(笑)トロンボーンの新規カットが特にスピーディで格好良かった。今までの演者の感情を重視した演奏シーンとはまた一味違う、楽器演奏の格好よさ、吹奏楽の格好よさみたいなのが見れて嬉しかったです。

 そして、三日月の舞。始まりの緊張感、信頼ゆえに麗奈が久美子を心配するようなアイコンタクトがなくなっていたり、三年生の表情により必死さが感じられたり(特に香織。良い意味でとても高校生らしい必死な表情が多かったと思います)、譜面書き込みが最後の演奏っぽくなってたり、ぐっと来た部分が沢山ありました。その中でも一番印象的だったのが、ユーフォソロであすかの視点になるシーン。客席を見上げて、お父さんに向けて音を届けたいんだけど、真っ暗でどこにいるかわからないんですよね。それでも届いていることを信じて全力でユーフォを吹くあすかに、切なくなりました。この瞬間のためにあすかはここまで必死に頑張ってきた、けどその瞬間に音を届けたい人が舞台上からは明確には見えないという不安感と、向こうは自分を捉えてくれていることを信じたくなる気持ちが凄く伝わってきて、普段よくわからないあすかの心情と見ている側が一番リンクした瞬間だったんじゃないかと思います。

 

・ラストカット

 あれは多分イメージですよね。久美子とあすかの関係って、恋愛でも友情でもただの先輩後輩関係でもなく、言葉にするのが難しいんだけど、人間関係として至上だな、と思います。多分、2人の関係自体がどうこうというより、この2人だから共有できている瞬間瞬間がもの凄く尊いものなんだろうなぁ。この映画を象徴するような、とても優しいシーンでした。

 

4、その他

 ユーフォは部活の面白さ、群像劇の面白さという枠を超えて、人を描くことに特化できるとても魅力的なコンテンツに昇華したと感じました。心の機微や一瞬一瞬の感情にこそ人生の意味が宿る、そう思える瞬間がたくさんあって、この映画を見ている時間が凄く幸せでした。制作陣に感謝しつつ、新作でも信じた「良いもの」に向かって突き進んでほしいし、それを見る側の人間として共有できたら本当に嬉しいです。

 

P.S. 2回目を先日みました。感想を箇条書き的にまとめときます。

・やはり川﨑チネチッタのlivezoundが素晴らしく良い音響だった。おなかに響く音と、臨場感が凄い。とくの真ん中の席で見ると、音にムラがなくてとてもバランスよく、かつそれぞれの楽器の迫力が伝わってきます。さらに演奏シーンだけでなく、細かいSEも非常に味わい深く聞こえる。ほかの劇場がどうだか知りませんが、個人的にはチネチッタでlivezoundでみると本作の魅力が数段アップすると思います。マジで、音って大事。

・フォトセッションも2週目の面白かったですね。なかよし川は色々うずまく北宇治内で唯一安心してみていられる安定したコンビだと再確認しました(笑)あと、みぞれが意外とちょいちょい喋ってて、みぞれってボーっとしているようで凄く芯のある、自分の考えを持った子だなと感じました。

・あすかに久美子が体育館うらで気持ちをぶつけるシーンのお芝居は、映画のほうがその場で生まれた感情のままに勢いよくいっている感じがしました。TV版も素晴らしかったのでどっちがいいとか比べられないですが、しいて言うならどっちも方向性が違って良い。「気になって近づく癖に~」というシーンがあすか自身のことを言っているようなニュアンスになっていたのも、良かったです。あすかのお芝居は、今作の主役視点な面があって棘があるというよりは自然みがでていて、これも好きでした。

・2回目をみると、1回目どうしても若干感じてしまった「TV版とのシーン・構成の違い、セリフの言い回しの違いからくる違和感」がなくなり、すべて流れの中で自然に感じられて、作品のメッセージをまっすぐに受け止められる感じがしました。普段2回も同じ映画をみないので、正直楽しめるかな…と不安だったのですが、そういう気になる点がなくなった分一本の映画として凄く新鮮に楽しめました。

・新刊読後だと、(こっから新刊ネタバレあるので反転します)三日月の舞のみぞれのソロのシーンで入る希美の微笑の意味が大分違って見えますね…。ある種の安心感というか、この時点ではみぞれの才能に対して何も危機感がないというか、優越感というか…うん。そう考えると、結構嫌な感情がでている微笑だなぁと思いました。新刊の内容を知らないと普通に友達の演奏を聞いている図なんですが…凄いですね。エンディングロールの絵柄も、学年順ではあるんですが、歌詞とかなりリンクしている気がしました。先を行く人は大きく見えるけど~のとこで夏紀がでてきて、新刊終盤であすか先輩みたいにと語るシーンをと被って勝手にジーンときました。希美で「才能」のワードが出た時も、ゾクッとしました。

 

・最後に、個人的には、2回目の方が感動しました。いままでユーフォで泣いたことなかったんですが(ウルウルはしてたけど)、今回2回目ではじめて涙が流れて、自分でもびっくりしました。これまでは「北宇治」の話、「久美子やあすか達キャラクターの話」として感動していたんですが、今回ははじめて自分自身が久美子の立場になってみることができて。麻美子が後悔を語る場面で、凄く自分の上のきょうだいのことを考えました。で、自分にとっての「あすかや麻美子のポジション」の人のことを想いながら久美子が想いを伝える場面をみていたら、びっくりするくらい涙がでて、驚きました。この作品は、自分にとって大事な人(その人の本当に望む生き方をして欲しいと自分が強く願っている人)に対して、思うように生きてよ!と必死に伝える作品なんだなぁと、実感することができました。そういう気持ちを得られたことが凄く良かったし、作品に感謝したいです。自分にとっての久美子や、麻美子やあすかが誰なのかを考えながら見てみるというのも、良いんじゃないかと思います。おススメです。