arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

2021年 見てよかったおすすめ映画5選

今年ももう終わりということで、今年出会えて凄くよかったな~!という映画5選を書きたいと思います。大きなネタバレは避けていますが、テーマ性などには触れているのであしからず。

 

1、プロミシング・ヤング・ウーマン

 とても重く面白い映画。主人公の女性が、ある復讐のために男性たちを誘っていくという展開なのだけど、その後ろにある鋭い問題提起により、「男性陣のノリ」が行き過ぎたときに生じる罪と、それにより犠牲になるものの価値を描き出している。重いテーマだけどとにかく脚本も構成も緻密で全く無駄のないテンポのいい進み。かつポップなので、鬱屈とせずにのめり込んで魅入ってしまった。

 主人公は加害者の男性たちに沸騰するほどの怒りを抱いているけれど、その怒りと失ったものの哀しみに、ある意味依存しているようにも見えるのが辛かった。復讐される男性側について、過去の軽い気持ちでの行動により今の幸せな生活が影響を受けていくので、見る人によっては復讐される側のほうが可哀想と思うかもしれない。でも、その軽いノリのつもりで、若気の至りでやったことが人の尊厳や未来を奪う以上、その罪を軽く見せてしまう「ノリ」や「若気の至り」ほど悪質なものはないな、と感じずにはいられなかった。ちゃんとその事実を見ろよ、という挑戦的映画だった。

 

2,由宇子の天秤

 真実の追求をモットーにするドキュメンタリー監督が、自身の身近で起きたある出来事をきっかけにその出来事の真実を覆い隠さなければならなくなり、自身の心情とその他の大切なものとの間でなんとかバランスをとろうするがどんどん追い詰められていく…という話。真実を追求するのが自身の役目と信じて疑わないまっとうな主人公は、他者が真実を隠そうとするとそれを容赦なくあぶりだすのだが、自分や家族にいざその状況が降りかかると、それを隠すしかない、それしか選択肢がないということに気づく。この作品のとても面白い点は、正義と悪が対立しているのではなく、主人公の正義心と良心が対立してしまう展開に持って行ったこと。外野にいる人間はたやすく正義の側に立つことができるけれど、渦中に入ってしまえばどちらかに立てば何かが失われるという状況を次々に突き付けられ、正義に立つためにはもう一方の重要な何かを捨てなければならなくなる。そしてその選択はフラットに選べるものでもなく、たいていどちらかを選ばざるを得ない状況になってその構図を理解することとなる。その苦しみや悩みは、外にいる人間がとやかく言えることではないのに、外の人間の声が大きい時代になってきて、渦中にいる人間はますます追い詰められていく。現代社会の構造をあぶりだした秀逸な作品だと思った。

 また、この映画が春本監督が自分でお金を集めてその予算内で撮った作品というのもすごかった。それこそ外の意図や圧力に、自分の描くものを曲げさせないという強い信念と、そのためにおそらく自分の生活の安定とか多くのものを切り捨てたのだろうという覚悟を感じて、頭が下がる思いだった。

 

3,ドライブ・マイ・カー

 最近賞レースにどんどんのっていてオバマ大統領も今年見た映画何選にあげてたくらいなので、作品が素晴らしいことは多くの人が認めるところなんだと思う。

 とても演劇的なやり取りを尊重した映画で、演劇をやったことがある人や好きな人にはたまらない映画だと思う。難しいやり取りの積み重ねで、じれったさとかフラストレーションが溜まったところに、ふとした瞬間に素朴な会話ややり取り、表情のギャップなどとてもわかりやすい温かみを差し込んでくるので、その些細なシーンがグッときてしまう。特に孤独な人、哀しみの中にいる人に、寄り添うような映画。

 岡田将生さんが本当に素晴らしく、特にあるシーンで長いカットのはずなのに一瞬も瞬きしたくないというほど引き込まれてしまった。助演男優賞をとるべきだと思う。純粋さの中に闇や葛藤、諦観を含めた高槻というとても難しい役柄だったが、高槻そのものにしか見えなかった。

 

4,機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

 ガンダムは個人的にはロボットものというよりも、移民モノだと思っている。地球に人類が住みきれなくなって棄民政策として宇宙に放り出された人類がその後どういう流れたどったかを、各段階を生きる葛藤を抱えた主人公やその周辺人物を通して描いているコンテンツだと思うし、そこにとても価値深いものを感じている。

 本作は地球連邦軍の超優秀な軍人ブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノアが、テロリストとして彼の思想をもとに人々をけん引していく話だが、1作目にあたる本作では、彼の素朴さ、テロリストであり英雄の息子であり一人の男である存在としての葛藤が印象的で、自分の考えを信じて疑わないような人物像や反体制の正義に燃えるような革命家とは一線を排したその素朴さに好感を抱けた。ミステリアスだが諸さの目立つ少女ギギなど、魅力的な人物が多く、何より絵があまりに緻密でなめらかでゴージャスで見ごたえが凄かった。村瀬修功監督のファンなので、絶対見に行こうと思っていたけど、あのとても紳士的なキャラデザインやデフォルメされない骨格など、写実的なアニメーションが好きな人にはごちそうのような画面だと思う。Dolbycinemaの音が素晴らしかった。

 

5,エターナルズ

 多分映画史に残る映画だと思う。マーベル系列の映画は正直去年まで全く興味がなく、あぁ、アメコミヒーローものね…みたいな感覚だったのだが、最近のマーベルがいかに全世界レベルで人の価値観を動かすために映画というコンテンツを最大活用しているか、ということを知ってからは、何か大きな社会的クリエイター集団のような捉え方をするようになった。

 エターナルズはその最たるもので、主役のヒーローが10人くらいいて、みんな人種がバラバラ、しかも手話で会話する人がいたり、同性愛者がいたり、精神に病を抱える人がいたりして、それらがスーパーパワーをもって連携しながら宇宙からくる敵を超格好良く倒していくのである。その構図がもう自分の中に潜在的にあった偏見をぶち壊してくれる感じで心地よく、その関係性や各自が色々な国で生活する姿が本当に魅力的なのだった。

 人間の愚かさを描くシーンで、なんと第二次世界大戦中の日本におけるあるできごとが描写される場面があり、このシーンをよくアメリカ映画で出せたな…と本当に驚いた。アジア人やアジアにルーツのある人が世界に出ていくことって、こういう影響があるんだ、ということを気づかされて重要な発見だった。これほどの超大作だと、こういう描写は絶対配給元と揉めると思うのだけど、脚本の方と監督のクロエジャオの尽力で通ったらしい。クロエジャオ監督は、このあまりにも多様な要素を1本のエンタメに(しかもオタクチックに)まとめきれるというのはすさまじい実力だと思った。ぜひ2を作ってほしい。

 

その他にも質の高い良い映画にたくさん出会えて充実した1年間だった。ありがとう2020年。