arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

Life Is Strange(ライフイズストレンジ)感想

1、ネタバレなし感想

 評判が良かったので、ps3でプレイしました。5つのチャプターで構成されていて、さながら5話の海外ドラマをプレイしているかのよう。ゲームである分ドラマより没入感が高く、主人公マックスにどんどん感情が入り込んで、幾つかのシーンがすごく記憶に残るものになった。アート(さすがフランスの会社…!)、音楽、ストーリー、キャラクター造形、どれもよく練り込まれていて、深みと面白さの詰まった良いゲームだったと思う。

 クリアまでのプレイ時間について、自分は20時間くらいだったけど、なにせこのゲームは随所随所で時間を巻き戻して再度トライすることができるので、おそらく人によっては3,40時間かかる場合もあるのでは。逆にサクッと進めちゃう人は10時間ちょいで終わりそう。調べるアイテムとかの要素が多いので、ボリュームは決して少なくないという印象だった。キャラクターを好きになれるかでゲーム自体を楽しめるかが決まってくるタイプの作品なので、なるべくじっくり色々な小物とか選択肢を試しながら進めた方が良いと思う。

 タイムリープものではあるけど、ディレクターコメンタリーで言っていた通り、SF要素はただのツールで、このゲームの一番の魅力はキャラクターたちの心模様や、社会問題をガンガンに取り入れたストーリー。いじめや家庭の問題、失業、病気、ドラッグなどをキャラクターたち自身の問題として自然に取り入れていて、プレイヤー(マックス)はそれに向き合わなくてはいけないし、決断しないといけない。けどそれがただ堅苦しかったり憂鬱というわけでなく、この子の状況をなんとかしたい、という友人としての気持ちで向き合えるというのが、このゲームの凄く優れた点だと思う。それが適っている要因はおそらく、主人公マックスの性格がめちゃくちゃいい(優しさとユーモアと独特のオタクっぽさがある)のと、脇役たちのバックグラウンドがよく描かれている点にあると思う。一見ヒドイ奴も、実はそいつの部屋をよく見ると意外な面や優れた面を知れたりする。そういう散策をじっくりしながらストーリーを進めれば、グッとくる瞬間が沢山あると思う。

 ちなみに最初英語の勉強目的で字幕音声全部英語にしたんだけど、結構スラングも多いし言い回しが自分の英語レベルでは大分難しくて、途中で諦めて日本語字幕にした。そしたら案外日本語字幕のニュアンスが素晴らしくて、ローカライズスタッフさまさまなゲームでもありました。

 

 

 

2、ネタバレありまくり語り

 未プレイの方は、特にこのゲームはネタバレとか攻略見ない方が良い(起こることを実際経験した方が良い)と思うので、読まないことをおすすめします。

 

・マックスが良すぎる

 マックスの、アイテムとかポスターに対する反応がいちいちちょっと皮肉っぽかったりしてめっちゃ面白かった。こんな自然な感性の主人公よく生み出せたなぁと、途中からそこに感動しまくっていました。終盤は黒いシャツも相まって格好良さと本物のヒーローっぽさも感じられて、凄く魅力的な主人公だったと思う。真相がわかった後また振り出しに戻った場面ではマックスの成長(積極的になったというか、選択することを迷わなくなった感じ)が如実に表れていてなんだか感慨深かった。あとアップになるたび思ってたけど、マックスかなり可愛いよね。

 

・ジェファソン

 最近見たタイムリープものの作品とちょっと展開が被ってて、既視感が(笑)。芸術肌でみんなに尊敬される先生が実はサイコパスで~という展開はちょっとありがちな気もして、この辺の展開は好みが分かれそう。写真家としての成功とかでなく、この人はこの人なりに追い求める何かがあったんだろうけど、殺しちゃあかんやろ…。

 

・個人的に良かったシーン

  全体的に場面の色調(夕日の温かい感じや各キャラの部屋の温度差、トイレや暗室の不気味さ、線路の静かな感じ、夜のプールの鮮やかさ、廃棄物置き場のカラフルだけど廃れている感じとか)が凄く良かったし、終盤のループから抜け出せないような焦燥感をあおる演出、スノウドームの中からみる自分の選択の罪という構図、クロエと二人で海を眺めている時のノスタルジー、どれも最高だった。語彙力がなくてホント悲しいけど、エモいシーンが沢山あったな…。沢山あったけど、特に好きな場面を。

 ケイトへのお見舞いシーン。ケイトとマックスが抱き合うとこで、本当にケイト助かって良かったなぁ、とぐっと来た。ケイトが敬虔なクリスチャンというのは設定にエッジがきいてて凄く良いと思う。ケイトの部屋着のダサさが最高だと思った。

 別ルートのクロエと、クロエの部屋で二人で映画を見る一連のシーン。クロエを殺すかどうかの選択肢でとにかく悩みまくった。まさかこんな選択肢がくるとは思わないでしょ…。クロエだけじゃなく、ジョイスやお父さんにとってどうすべきかとか、現実のことみたいに色々考えた。こっちのクロエは汚い言葉遣いもしないし凄く立派で優秀というのも、なんともやりきれない。気管支が弱っていることなどもさりげなく表現されていたり、セリフやクロエの部屋の描写などが凄く自然で、正直序盤クロエ好きじゃなかったんだけど、この一連のシーンから人柄を知ったように思えて、凄く大事な存在に感じるようになった。

 パーティー会場前でのウォーレンの酔っぱらいシーン。素のウォーレンって感じのニュアンスがでていて、オタクで良い奴というだけじゃない、ウォーレンも漠然とした未来への不安を抱えてるんだなあというのが見えて、凄くウォーレンが好きになったシーンだった。というか、ウォーレンめっちゃ優秀で優しくていざというとき格好良くて、あんなんみんな惚れるわ。

 ネイサンの留守電。泣いた。今作唯一泣いたのがこのシーンだった。ネイサンの父親の冷たさや精神の病で苦しんでいたこと、ジェファソンを親のように慕っていたことがそれとなく描かれていたので、もうこの留守電でめちゃめちゃネイサンが可哀想になってしまって、車運転しながらどうにかしてネイサン救済ルートがないかと思ったがそんなものはなかった(いや、最後の選択肢で助けられたけど)。

 

・最後の選択肢について

 私はウォーレンとかケイトとかビクトリアとかネイサンとかジョイスとか、この街の人が凄い好きになってしまったというのが大きくて、結局クロエを犠牲にした。タイムリープものとしてはこういう選択肢で終わるのはちょっとありがちかな、とも思ったんだけど、その前のクロエとの思い出をひとつひとつ辿っていくステージがめっちゃ良い出来だったのと、ラストのムービーをみていて、この街の平和がクロエっていう一人の大切な友人の犠牲で成り立っているという実感がわいてきて、なんというか凄く尊いもののような感じがした。クロエとのあるはずのなかった二人の時間がマックスの中だけにある、という記憶とか時間のありように感動したというか。主題歌はクロエ生存ルートで流れていたから、話としては親友のために街を犠牲にする方が美しいのかもしれないけど、クロエがいないからこそマックスはその犠牲を1人背負っていくわけで、そういう締めくくりの方がマックスの物語としては意味深いんじゃないかと思った。

 本作は正直「え、ここの部分だけこう変えてもっかりやり直せばよくね?」とか色々突っ込もうと思えば突っ込めてしまうし、そもそも能力の詳細な説明がないので作り手も理論的な部分は重視していないのではないかと思う。でも、それをふまえて、マックスの一番マズかった選択は何だったかと考えれば、それは多分引っ越した後5年間クロエと連絡をとらなかったという選択なんだと思う。その間親友であり続けたならクロエはそもそもトイレで撃ち殺されるような危ない話に首を突っ込まなかっただろうし、この先も二人いっしょに生きていけたんだと思う。でももうその選択肢をやり直すことはできず、状況が変わった後にどれだけやり直しを頑張ってみてもすべてが上手くいくことはない。それだけその選択が、当時のマックスにとってはただなんとなく気まづくなって消極的にそうしていただけだとしても、重い選択だったということをこのゲームは伝えたかったのかな、となんとなく思った。

 

3、その他

 ディレクターズコメンタリーも凄く良かった。プレイ後まだ見てない人がいたらぜひ。無料でダウンロードできるので。

 

 

 

 

個人的に「見て良かった!」と思うおすすめアニメランキングTOP32

今まで全話視聴したTVアニメ作品約95作(単発もの除く)の中から特に個人的に「見て良かった!」と思うおすすめ32作品をランキング形式で紹介します!

個人の好みで書いているので、合わなかったらすみません。自己満みたいなまとめなのでご容赦いただければ幸いです。

ライトな作品というより、結構ガチめのが多いかも。

シリーズものは「~シリーズ」という形で1つにまとめています。

選んだ基準はかなり抽象的ですが、単純に面白かったものよりも、深く心に残ったものを重視してます。順位はあまり上下つけがたくて、悩んだ末結構適当につけました。

作品の魅力だと思う点3つとコメントをのせさせてもらってます。視聴時の面白さを削ぐようなネタバレは極力避けたつもりです。全体的に語彙力は低めです。

画像(5位から載せてます)は公式サイト又は公式発表のキービジュアル紹介記事から転載させていただきました。

それではよろしくお願いします!

 

32位 「NARUTO」シリーズ

・OPのクオリティーが異様に高い

・定期的に気合の入った凄い格闘シーンがあり、動きまくる上その動きがもの凄く忍者っぽくて格好いい。原作も恐ろしく絵がうまいけどアニメにした意義が存分に発揮される格闘シーンは見ないと損するレベル。

・才能と努力、孤独、認められること、諦めないこと、父母の愛情、想い人への愛情、好敵手、師弟、戦争、人の死と受け継がれるもの、といった重要なテーマに真摯に向き合っている。

少年漫画原作ですが、努力・友情・勝利をしっかり押さえつつ、特に孤独や争い、世の中の無常、想いの伝わらなさについてもかなり切り込んでいる作品だと思います。深い哀しみを抱えたキャラクターが多く、その想いにナルトがちゃんと向き合って、懐の深い人間に成長していく様がとても良かったなと。

 

31位 鉄血のオルフェンズ

・おそらく戦場の少年たちをなるべく美化せずに描こうとした、これまでにあまりないタイプのガンダム作品

・MSのデザインが渋くて格好いい。戦闘シーンに重厚感と臨場感がある。

・倫理観が麻痺する

 戦争はだめだ!みたいに聡しながら戦う主人公でなく、弱肉強食の世界の中で必要があれば容赦なく殺し自分達の居場所を自分たちでもぎ取っていく、という作品性に真実味があったと思う。終盤の各キャラの命を全部懸けきるような戦い方にはゾッとした。オルガのシーンは正直なんでそんなネタになってるのかわからない。少年兵たちの戦いとその行く末を描いた作品なので、笑いのネタにするような話じゃないと思う。

 

30位 悪の華

 ・序盤、好きな子の体操着を盗むというのがまず気持ち悪い

ロトスコープという技術を用いた実写的な絵柄が生々しくて気持ち悪い

・気持ち悪いが、とにかく凄い

 人におすすめするタイプの作品ではないかもしれないけど、終盤にかけて心の奥底に突っ込んでくるようなえぐみと熱さがある作品で、見た当時衝撃だった。アイデンティティや人の本性ってなんだろう、と考えてる人や、なんか凄まじいアニメを見たい人にはおすすめかもしれない。OPEDも作品に合っていてとても良い。あえてこの路線で作りきったスタッフさん達、凄いと思う。

 

29位 境界の彼方

 ・京都アニメーションによるアクションアニメ。アクションシーンの色合いや動きがとても綺麗

・6話がぶっとびすぎている

・劇場版できっちり完結

 結構精神世界とかノリで乗り越える部分も多いので、それが苦手な人には合わないかも。アクションシーンのセンスが好みだったのと、劇場版の未来編が凄く愛情深くて温かいお話で、鑑賞後とても幸せな気持ちになった。監督がインタビューで、性善説を信じたい、みたいな話をしていて、心に残っている。

 

28位 四畳半神話体系

 ・全大学生とこれから大学生になる方々は見た方が良い。多分大学生活の8割が詰まっているし、テニサーとか宗教サークルとかの話は実際参考になると思う(京大ライフは京大卒の友人曰くほぼこんな感じらしい)

・テンポが非常に良いのでスイスイみれる

・とても綺麗にまとまっている(絶対最終話までみるべし)

 天才湯浅正明監督によるアニメシリーズ。大学入る前かせめて在学中に見とけばよかったなと後悔した。同監督の劇場作品「夜明け告げるルーのうた」もとても良い。netflixオリジナルアニメの『DEVILMAN crybaby』も湯浅流がさく裂していて面白く、最後まで見るとなにか虚しさと熱さが残る良い作品だったと思う。他の媒体にはないアニメーションならではの画面の動きや構図を思う存分楽しめる。

 

27位 「ガッチャマンクラウズ」シリーズ

 ・ガッチャマンの基礎知識は全く不要。現代におけるヒーローとは何か、を問う話

・主人公のはじめちゃんがとても鋭いセンスの持ち主でかっこかわいい

・一期はSNS、二期は民意や選挙を扱っており、かなり直球な社会派アニメ。

 こういう、これからの社会がどうあるべきかを考えるための作品はあった方が良いと思う。ただ、人によっては少し説教くさく感じるかも。OPがめっちゃ格好良い。絵作りがカラフルでオシャレ。

 

26位 四月は君の嘘

 ・設定はベタだが、話の流れや各人物の心情が丁寧に描かれていて感動する

・演奏シーンの完成度が高い

・絵が全体的に淡いタッチで温かく優しい

 すごく良い話。それだけといえばそれだけなのだが、とても良い話なので、何かそういう作品をみたい時には是非。ライバルキャラたちの回がどれも良かった。

 

25位 銀河機攻隊マジェスティックプリンス

 ・重い設定のロボット戦争ものだが、ノリが非常に明るく前向き

・ロボットのデザインがもの凄く格好良い。各ロボットにチーム内での役割が与えられており、そのコンセプトに沿ったデザインになっていて設計が面白い。

・チームラビッツがみんな良い子達なので、いつの間にかわが子を見守るかのような心情になる

 ここまでコミカルで明るい方向に振り切れた宇宙ロボット戦争物を見たことがなかったので大分新鮮だった。展開がめちゃくちゃ面白いとかではないが、家族のようなキャラクターたちの温かさにほっこりすること間違いない。ロボ戦も非常にスピーディかつ戦略的で熱い。あとごくたまに爆笑級のギャグがくるので油断できない。

 

24位 坂道のアポロン

 ・ジャズアニメ。毎話のタイトルがジャズの名曲からきており、それに絡めた展開になっている。演奏シーンでジャズの格好よさに惚れる。

・りっちゃんの方言がかわいい。ていうかりっちゃんが可愛い。

菅野よう子×YUKIによるOPが非常に良い

 原作とくらべちょっと展開が早め。青春の甘酸っぱさが詰まっていて見ていてちょっと恥ずかしくなる。音楽でお互いのことがわかるって素敵だなと思う作品。

 

23位 残響のテロル

 ・社会に人生を支配された若者2人の全力の抗争

・BGMが凄く良い

・終わり方が綺麗

 言いたいことがはっきりしている作品だった。主人公らはテロリストではあるが、決して「テロカッコいい」という類の話ではなく、権力や世の中のおかしい部分に何とかして一石を投じようとする青年達の話だと思う。ラスト余韻があってよかった。

 

22位 寄生獣~セイの格率~

・タイトルの意味がわかったときはゾクッとした。非常にメッセージ性のある作品。

・キャラクター各人がそれぞれに哲学的テーマを負っていて、考えさせられるセリフや行動が多い

・ミギーがきも可愛い

 原作未読。自分たちが日々生きていることがどういうことなのかについて、一つの視点を明示してくれる作品だった。ラストバトルまでそのテーマ性が詰め込まれていて、物語の完成度がとても高い。キャスト陣も良かった。

 

21位 灰と幻想のグリムガル

 ・異世界ダンジョンものだが、主人公たちがとにかく雑魚。ゴブリンすらなかなか倒せないという斬新な設定

・雑魚である自分たちが生き残るためにどうすべきかを考えみんなが成長していくものの、なかなか強くなれないといった展開が、ファンタジーでありながらかなり現実的

・水彩画のような世界観が淡く美しい

 驚くほど主人公たちが弱いので、ガンガン進む爽快感は欠片もない。かなりゆっくりとしたペースで丁寧に心情描写する作品。その分、一つ一つの戦いに緊張感と妙な生々しさがある。一つの残酷な現実に主人公たちが落とし前をつける展開が良かったと思う。

 

20位 東京マグニチュード8.0

 ・災害想定アニメ。このアニメ放映後に実際に日本でも3.11が起きてしまったため、今見るとまた違った見方になる人もいるかもしれない。

・災害に備えて役立つ知識も多く、勉強になる

・終盤とにかく涙が止まらない

 お涙頂戴ものといわれればそれまでだが、多分自分が今まで見た中で一番泣いたアニメはこれ。とにかく涙なしにみれない。

 

19位 僕だけがいない街

 ・小学生のころにタイムスリップし、当時殺された同級生の女の子を救うべく真相を探っていく話

・見た目は子供、素顔は大人!なのだが、コミカルなシーンもあり、今の自分が小学生に戻ったらという感覚でも見れて面白い。

・タイトル回収が少し想像と違ったが、とても美しくまとまっていた

 誰かの幸せを願うこと、誰かが自分の幸せを願ってくれることの幸福と、そのための挑戦を描いた作品だと思う。女優の土屋太鳳さんが主人公役だが非常にハマっていた。お母さん役の高山みなみさんも素晴らしいと思う。

 

18位 月がきれい

 ・人が人に惹かれていくこと、好きという感情をとても丁寧に描いた作品

・おはやしといった文化を鮮やかに取り入れていて、情緒がある

・何気ない一言や仕草にグッとくる

 特に劇的なシーンや展開がなくても面白いエンタテイメントが作れると証明した作品だと思う。大人も含め、それぞれの人物の言動や心の動きがとても自然で、見ていて作り物的違和感がないのが凄い。

 

17位 Ergo Proxy 

・哲学的テーマを含んでいるのでかなり難解(難解すぎるので、中盤クイズ形式でヒントをだしてくれる回を用意しているという斬新さ)

ピノと、アイシャドウを落としたリルさんの可愛さにぐっとくる

村瀬修功さんによる渋く大人っぽいキャラクターや世界観が魅力的

  OPがとても格好いい。荒涼とした世界観だが、キャラクターたちはかなり人間臭かったり懐っこい。ビンスの変貌っぷりはかなり格好良くて衝撃を受けた。

 

16位 「PSYCHO-PASS」シリーズ

 ・全国民が「犯罪係数」を数値化され、罪を犯していなくてもその数値で潜在犯とされたり裁かれたりする。システムに管理された日本が舞台。

・新米刑事だった主人公常守朱が「サイコパス」な犯罪者たちを相手にし、だんだんと強くなっていく様が凄い。

・社会そのもの、システムそのものの真相にまで話が展開し、特に一期終盤の数話、二期の最後で明示された新しい概念などが非常に面白い。

 ありそうな設定だが、実際に作品として落とし込んだものは初めて見たので新鮮で面白かった。キャラクターも敵味方含め個性的で魅力がある。ただ、見る人によっては影響される結構危険な作品かもしれない。実際AIが発達したらこういう社会も来うるかもと思うと、かなりゾッとする。

 

15位 機動戦士ガンダムUC RE:0096

 ・劇場版シリーズ「ガンダムUC」をテレビシリーズ化したもの。正直自分は劇場版の主題歌の方が好きなので、ぜひBD、DVDで劇場シリーズの方を見てほしい

・権力や建前といった大人の世界を描きつつ、その中でどう真っ直ぐな想い、正しい思いを大事にしていくか、というのを描いた作品だと思う

・人の善意、神、戦争、社会といったものについて大人たちやマリーダが主人公バナージ、ミネバに語り掛けるシーンがどれも秀逸。

 終盤抽象的な話で終わった感がありすこし残念だったが、難しいテーマや社会構造、争いの哀しみをかなりわかりやすく盛り込んだ作品だった。MS戦も非常に渋くて格好良い。若いころにみるべき一作だと思う。

 

14位 「鋼の錬金術師」シリーズ

・一作目はダークな世界観と夕方6時放送と思えぬかなりキツイく重い展開が魅力、二作目(FULLMETAL ALCHEMIST)は錬金術ファンタジーとしての高い物語の完成度と動きまくる戦闘シーンが魅力

・一作目劇場版「シャンバラを往くもの」は大戦前のドイツ、ベルサイユ条約といった歴史的状況をモチーフにロケット工学や民族差別まで盛り込んだ骨太な脚本。これだけの人気作の完結劇場版にそんな固く重いテーマをぶっこんでかつ面白い作品に仕上げた制作陣はすさまじいと思う。二作目も丸々一話内戦を描いていて、重厚なテーマを扱った作品群。

・特に二作目は脇役にまで活躍の機会があり、広げまくった風呂敷が終盤畳まれていく様は見事としか言いようがない。

 兄弟愛、科学、軍と国、戦争とその裏にいる者、禁忌、生命、権力闘争、家族愛、大人の役割と次世代への責任、罪と罰、神、仲間といった様々なテーマを描きつつ、伏線も全部回収して綺麗に完結した本作の完成度は異常だと思う。1作目、2作目でかなり設定やキャラ付けは違うが、どちらも良いのでぜひ両方(一作目は絶対シャンバラまで)見てほしい。

 

13位  灰羽連盟

 ・登場人物たちの心の浄化の物語

・BGMがとても優しくて切なくて良い

・罪とは、赦しとは、あの世界にいる人たちはなぜあそこにいるのか、この教えはどういう意味なのか、と考察していく余地が広い

精神的に苦しいことを抱えている人にはぜひ見てほしい。無理な明るさや楽観でなく、そっと寄り添ってくれる作品。安倍吉俊さんによるキャラデザや色彩が抑えられつつあたたかな世界観が素晴らしい。

 

12位 デジモンアドベンチャー

 ・圧倒的カタルシス。ひと夏の冒険にワクワクドキドキしながら見れる。

・義務教育教材にしてほしいくらいの良質な成長物語

・劇場版僕らのウォーゲームの高い完成度(監督同じだしサマーウォーズの元ネタはどう考えてもこれ)

思い出補正が入っていると思いますが、やっぱり世代的にアニメを好きにさせてくれた作品だし、この順位で。子供時代に、自分も選ばれし子どもだったらなぁと毎日考えて夢見ていたけど、今振り返るとOP曲は「無限大な夢の後の何もない世の中じゃ~」って歌ってて、これから大人になる子供たちへの応援歌だったのかなぁと。

 

11位 三月のライオン

 ・原作本が素晴らしく、それをかなり忠実にアニメ化した作品

・勝負の世界に生きる一人一人の天才、秀才たちの苦しみ、足掻きを描いており、その世界で戦い続けるものにしかわからない何かに憧れる

・話数によって色彩感がかなり変わり、川の景色、雨や雪、教室の冷気、みんなで食べるご飯の温かさなどが画面から伝わってくる

 たった数話でその人のこれまでの人生の悲喜こもごもと一局に懸ける熱意を的確に描けている原作者羽海野先生は本物の天才中の天才だと思う。個人的には、2期にでてくるいじめ主犯格と先生との会話はいじめの本質について1つの明確な答えを提示していて、ハッとした。

 

10位 妄想代理人

 ・今敏監督によるテレビシリーズ作品

・全く笑えない状況の中で爆笑している人物たちに狂気と社会の闇を感じるOP

・現代人の心の闇と内なる願望を詰めに詰めており、見ていてかなり重みと怖さを感じる。終盤は前向きな部分も多く、現代社会の苦しみに向き合った作品だと思う。

 今敏監督の作品(東京ゴッドファーザーズ、パプリカ、千年女優など)が大好きなので、この順位に。今監督の絵コンテはもの凄く緻密で凄いので、アニメーション自体に興味があったら是非見たほうがいい(監督のブログ「KON‘S TONE」などに載っている。ブログ自体も監督の考えていることなどが沢山書いてあってめっちゃ面白い)。監督がどこかのインタビューで仰っていた「アニメはロケーションも人物も自由でなんでも描けるのに、ロボットと美少女と爆発ばっかりなのは勿体ない」という趣旨の言葉がとても印象に残っています。

 

9位 「コードギアス 反逆のルルーシュ」シリーズ

 ・続きが気になるアニメナンバーワン。おそろしくテンポが速い

・日本が植民地になったら、という刺激的な設定

・各キャラの思惑が入り乱れる心理戦が魅力。ルルーシュも次第に優先したいものが増えていき、自分の行動で多くの大切なものを傷つける結果となってしまう、というジレンマの重なりで、ストーリーが2倍3倍に深くなっていく。

 主人公の状況や体制への反逆精神が凄まじく、理不尽に対してここまで熱量を以って怒れて、かつ行動できるのは凄いなと率直に思った。キャラクター数が非常に多いにもかかわらずそれらを(特に1期は)みごとに捌ききっており、展開運びがとにかくエキサイティング。終わり方がとても綺麗。

 

8位 BLOOD+

 ・サヤとその家族、ディーヴァとその騎士たち、シフのメンバー、赤い楯のメンバー、ジャーナリストなど、サヤをめぐって様々な立場の人物たちが動いており、各人立場だけでなく反対勢力同士でも実は繋がりがあったり、個人的な事情や興味で動いていたりして、関係性が複雑で面白い。

・沖縄基地、ベトナム戦争など社会的内容を扱っている点、ロシア、フランス、イギリスなど世界各地を舞台にしている点、夕方六時にやっていたとは思えないほどグロテスクなシーンが多い点(グロイのはちゃんと意味がある)など、アニメ放送の限界に果敢に挑戦している意欲作。

・OP、EDがどれも素晴らしい

 どのキャラクターも人間らしくて、変に強かったり感情に無理があったりということがなく、全体的にとても人間みがあって良かったと思います。真面目な人物が挫折して落ちぶれてなかなか立ち直れなかったり、友人のために別の友人を裏切ったり、そういう上手くいかない部分を大切にしていたのが凄く好きでした。重要キャラもかなり退場しますが、そのどれも軽くは扱わない。シフのエピソードなどは凄く心に残っています。話の軸であるサヤとディーヴァの対立も、敵意や憎しみだけでなく、姉妹としての愛情や責任もある。50話越えの長い物語だっただけに、最終回も納得のいく終わり方で、カタルシスがすごかったなぁ。

 

7位 輪るピングドラム

 ・地下鉄サリン事件をモチーフにした作品。主人公たちがどういう立場の子たちなのか、出てくる概念がどういう意味なのか、考察サイトとかをみつつみるとより理解が深まる。こういうテーマをアニメに持ってきたのは凄い意義あることだと思う。

・結構難解でよくわからない部分も多いが、最終回まで見るとどういう話だったかなんとなくわかる。

・OPEDの曲がとてもいい

  上手く言葉で説明できないが凄く尊いものをアニメーションに落とし込んだという意味で傑作だと思う。途中よくわからないし見ていてしんどいかもしれないが、是非最終回まで見てほしい。

 

6位 「HUNTER×HUNTER」シリーズ

・とにかく話が全部面白い。

・キメラアント編は種としての優劣や人間性を扱った傑作だと思う。

・OPのクオリティがクールを重ねどんどん上がっていく。終盤は戦闘シーンもかなり力が入っており、無理に原作を端折ることなく丁寧に作られている。

  2011年版の方の感想です。最初OPがダサいとか色々ディスられていましたが、最後までしっかり作られていて良かった。キャラクターがどれも個性的で立っていて、キャストも凄くハマっていたんじゃないかと。個人的には、こういう丁寧な再アニメ化はもっと評価されるべきと思う。

 

 

5位 リトルウィッチアカデミア

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© 2017 TRIGGER/吉成曜/「リトルウィッチアカデミア」製作委員会

 

・現代魔法女学校を舞台にしたファンタジー。魔女の社会的役割の縮小、魔法学校の財政難といった現代的テーマを含みつつ、憧れる気持ち、夢を追い続ける気持ちを真っ直ぐに描いた作品

・レース回、魚回、蜂回、スーシィ回、コンス回などのテンポとギャグセンスが秀逸。

・憧れや夢の良い面だけでなく、苦さや残酷さもしっかり描きながら、それでもそれを追いかけてたどり着くことの意味を描いた作品

 NETFLIXで一気見した。とにかくもの凄く良いアニメ。同会社(trigger)のグレンラガンキルラキルはちょっと何でも勢いで乗り切る感が強すぎて個人的に苦手だったけど、今作は主人公アッコがそもそも勢いしか取り柄がないような子だったこともあり、勢いで乗り切れるとこ、そうでないことがハッキリしていて、違和感なく見れて凄くハマった。アクションシーンなどの作画も、魔法が華やかでとても良い。生徒側だけでなく、教師側のドラマも人間味があってとても好きだった(あと本気を出したシャリオめっちゃ格好いい)。プロデューサーさんがインタビューかなにかで、武力でなく善の力を描きたいとおっしゃってたのが印象的だった。設定資料集等が載ったクロニクルという書籍も内容満載で良かった。続編を全力で待ち望んでいます。

 

 

4位 「攻殻機動隊」シリーズ

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士郎正宗/Production I.G/講談社/攻殻機動隊製作委員会

・近未来刑事もの。電脳社会になったらどうなるか、どういう問題が起こるか、人がどうつながるかといった先鋭的な視点で作られていて、新鮮かつこれからの社会を考える題材として非常に面白い

 ・政治や企業、行政、社会福祉、思想、哲学、生命倫理などの要素が多分に盛り込まれていて、難解だが視聴時の知的興奮が凄まじい(難しい本の引用で会話するシーンもやたら格好いい)

笑い男、クゼといった各シーズンの相手キャラが理念や信念をもとに動いており、本当に裁かれるべきは誰か、救われるべきは誰か、といった疑問を問いかけてくる

  名言が多い。特にクゼの「人は低きに流れる」というセリフに込められた失望感を思うと、もう少し日ごろちゃんと考えて生きようという気になる。これに影響されてサリンジャーを読んだが、こんな世間への反抗精神を詰めこんで影響してくる本がアメリカの若者の間ではバイブルだというのは大分凄いことだと思う。社会を疑って抗っていくことの格好よさと、社会をまともに維持していくことの格好よさが両立した稀有な作品。

 

 

3位 カレイドスター

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GONZO DIGIMATION(現GONZO)/テレビ東京ホリプロテレビ東京メディアネット

 ・サーカスものだが、自分が知る中でもっとも熱いスポコンで、もっとも最終回が美しく締められた作品

・レイラさんのプロ精神、向上心にとにかく圧倒される。現状に満足しない、自己実現に切迫した登場人物たちの熱さと周囲の人々の温かさに自然と涙がこぼれる。

・人が死ぬような劇的な展開や派手な戦闘があったりするわけではないが、もの凄く感動し心打たれるアニメ。

 大学院受験期に見て、このアニメのおかげで乗り切れたといっても過言でないくらい勇気づけられた。50話越えの長さで中盤中だるみしたという人もいるらしいが、個人的には3クール目からのメイとのライバル関係やソラがレイラから自立していく様こそ本作の神髄だと思っている。怠けちゃってるけど頑張りたい人、夢を追っている人、何かにむかって突き進みたい人にはぜひ見てほしい。

 

 

2位 「響け!ユーフォニアム」シリーズ

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©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 ・宇治の弱小吹奏楽部が全国を目指す物語。部活ものでありつつ、誰もが頑張れるわけではない、みんなが報われるわけではないという事実を大切に描いた作品

・まさにガールミーツガール。キャラクター同士の関係性が非常に魅力的。特に2期後半のタイトル回は久美子とあすかの単なる後輩と先輩という形では語れない関係、想いに触れるような話で、余韻がすさまじかった。

・演奏シーンがどれも非常に丁寧に作られていて凄い。特に二期5話の12分にも及ぶ演奏シーンは圧巻。

  一期序盤こそライトな日常ノリが挟まれていたが、2期まで見るとカタルシスが凄い。青春時代の美しいだけではない、穿った部分を新鮮に切り取っていて、それでいてあの時期にしかない輝きが詰め込まれた傑作だと思う。二期ではヒューマンドラマにより特化し、思春期の少女の視野の狭さや、正直に生きられない環境への諦めといった、より複雑な感情を美しい映像で描いていた。セリフのニュアンス、画面の色合い、目線や仕草、楽器の音色といった様々なスタッフワークにまで各人物の心情が映し出されていて、作り手側の「この感情を汲み取るんだ!」という熱意が凄い作品だと思う。

 

 

1位 「蒼穹のファフナー」シリーズ

 

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http://fafner-exodus.jp/img/txt_copylight.png

 ・分かり合うことについての絶望と希望を、個人レベル・コミュニティレベルで真摯に突き詰めており、お互いに痛みを伴いながらも相手を理解しようと対話することへの希望を描いた作品

・主要キャラクターが、みんなの居場所であり世界で唯一「平和」という文化の残る故郷「竜宮島」を守るために命を懸け、支え合ってたたかう。死ぬことではなく、自分で何のために命を使うかを決め、生ききること、存在し続けることを描いている。自己犠牲や存在否定を全力で否定し、存在することを全力で肯定していく。(何言ってるかわからんって人は本編を見てくれ…!)

・劇場版以降、戦闘シーンのクオリティがどれも恐ろしく高く、ファフナーのデザインも格好いい。しかしファフナーにおける戦いは常に消耗戦なので、格好いいけどもう戦ってほしくないというジレンマを視聴者に強いてくる稀有なロボットアニメ

 1期中盤までとにかく見てほしい。群像劇となっていて、島民全員が主役と言っても過言でないほど色々な家族関係、友情、恋愛関係が描かれている。戦場に出るのは主に若者たちだが、それを送り出す大人たち側の葛藤も描かれており、自分達が子供たちに対してできることを全力でやっていて、とにかく大人達がまとも。一騎達は、そんな大人たちとぶつかりながらも次第にその想いを学び、次の世代に島の文化や平和を受け継ぐ島の人間として成長していく。主題歌は全てAngelaが担当しており、どれも作品との調和性が非常に高い。スタッフ、キャスト、ファンから深く愛されたシリーズ。今の日本や社会情勢と重なる部分も多く、もっと注目されて皆に見られるべき作品だと思う。

 

 

 

<番外編(ランキング作ってからみたアニメで良かったものを随時追加中)>

ファンタジックチルドレン

・時間的に非常にスケールの大きい作品。遠い昔の罪と愛をめぐる話。

・とにかくストーリーが良い。序盤の意味不明だった展開や状況も、後半ですべて伏線として回収される。辛い展開も多いが、最後は救いのある終わり方だったと思う。べフォールの子供たちなど、覚悟を背負った魅力的なキャラクターが多い。

・OP、ED、BGMが透明感と情緒があって美しい。

一気見に向いている作品だと思う。中盤は苦しい展開に思わず呻きながら見て、最終回で贖罪の結末に自然と涙が零れた。とても味わい深い作品だったので、多くの人に見てほしい。


宇宙よりも遠い場所

・南極を目指す女子高生四人と、それに関わる民間調査隊の日々を、文科省等協力のもと専門性も含めつつ描いたドラマ

・主人公四人がそれぞれに親の死、何かに踏み出せないこと、友達がいないこと、過去の人間関係との決別、といったテーマを負っており、その全てがわずか13話の中でしっかりと描ききられている。各人が何に傷ついているか、何に苦しんでいるか、を少しずつ共有していく様に感動する。

・民間調査隊の大人たちが、四人をサポートしつつ自分たちの夢を追及していく姿が輝いている。

 総合力のある作品で、かつ一人一人の悩みを凄く的確な感情描写、台詞で描いていたのが印象的だった。5話くらいから、毎話グッと来るシーンの連続で、同じような経験をしたことがある人には救いや希望になる作品だと思うし、ない人にも感動を共有できる丁寧な作りなので、みんなにみてほしい一作。


 

 

以上になります。

こんな長い記事を最後まで読んでいただきありがとうございました。

視聴作品選びの参考になれば幸いです。

 

 

 

蒼穹のファフナーEXODUS 感想

1、作品について

 XEBEC制作による日本テレビアニメ作品。第一作が2004年7月に放送後、2005年にスペシャル番組『蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT』、2010年に映画『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』、2015年にTVシリーズ2期『蒼穹のファフナー EXODUS』が制作された。2016年12月29日、『蒼穹のファフナー THE BEYOND』の制作が発表された(媒体は不明)。

 「島・ロボット・群像劇・少年少女」をキーワードにオリジナルアニメとして企画・制作されており、近未来、未知の生命体“フェストゥム”によって侵略され人類存亡の危機に瀕した地球で、南海の孤島“竜宮島”を主な舞台とし少年少女たちが巨大ロボット“ファフナー”に搭乗して島を守る。(wikipediaより)

 

2、ネタバレなし感想

 シリーズすべて視聴済みです。そのうえでEXODUSの感想を中心に。

 ファフナーは2期から見始めて、その後色々遡りました。アニメはこれまで数十本みてますが、ファフナーはその中でも特に自分にとって意義ある作品で、特別です。まだ見てない人がいたらとにかく見てほしいので、その魅力を端的にまとめると

 

・重たいテーマと全力で向き合っている

 生と死、戦いと平和、相互理解と共存の困難など、難しいテーマと真っ向から勝負して、かついくつかの希望ある結論へと導いているのがこの作品の凄いところです。

 それでいて思春期の感情やロボアニメとしてのアツさをハイレベルに兼ね備えていて、エンタテイメントとしてもめっちゃ面白い。

 

・大人がまとも

 戦争やら哲学やらをロボアニメとして描いた作品はエヴァとかガンダムとか色々ありますが、ファフナーとの一番の違いは、大人がめちゃくちゃまっとうで子供を愛しているところです。子供に闘わせている責任を自覚し、どうしたらその負担を軽減できるか、争いでない未来に繋げられるかを日々必死に考えている。それだけでなく、平和を文化として尊重していて、争いが避けられないなかでもなんとかして平和という文化を残そうと頑張っている。これが他のロボアニメと一線を画す凄い部分だと思います。

 大人たち自身、人類間の争いとか困難な時代を生きてきた上で、竜宮島を作っているので、短期的でなく、長期的な視点から、どうしたら人類が存続できるか、平和を少しでも繋げていけるかを考えている。そして、それを次の世代も理解し、親を大切に想い、継承している。大人たちのそういう姿勢から、戦う若者たちもみんながこの島の人々を愛し、その価値を理解して動いている。そこがマジで凄い。

 

・他人事じゃない

 あんまりフィクションと現実を混ぜるべきじゃないけど、竜宮島をみてると凄く感じるし、おそらく意図して作られているんだろうと思うのは、この島の状況はもろ日本だと思います。そして、EXODUSでは、今の日本と世界との関わりを今後どうしていくか、というとても難しいが向き合うべき問題について間接的に描いていると思います。

 

 1期については(少し1期ネタバレになりますが)、15話から面白いみたいな話を聞いていたのですが、個人的には10話くらいから「子供たちに平和を知ってほしくて争いの日々の中でも日常をつくっている大人」の姿が描かれていて、他のアニメとは違う魅力を発揮してたと思います。また、ザイン登場あたりからは、ロボットアニメとしてとにかく熱い。一騎と総士、そして人間とフェストゥムの「対話」についてもの凄く真摯に描かれていて、どうしたら争わなくて済むか、お互いを分かり合えるのか、というテーマと本気で向き合って、いくつものヒントと答えを生み出したとても建設的な作品だと感じました。

 しかし、お話的には劇場版で一騎と総士の関係や希望にも一区切りついて、ここで終わってもいいのではないかと思えた蒼穹のファフナーシリーズ。これだけ重たい作品で2期をやるなら、1期・RoL・劇場版と積み上げてきた物語や視聴者との信頼の先に、次のレベルへ向かわなければならない、ということで、冲方さんはじめスタッフ陣が選択したのが「EXODUS」。

 EXODUSになり、島だけを描けばいい状況から相手コミュニティである新国連フェストゥム側も描く必要が生じ、コミュニティレベルの描写と各人レベルの描写が膨大に必要になった結果、後半尺不足だったのは否めないと思います。大分重い分毎週冗談抜きにして胃が痛いし、ところどころ理解しきれないし、なんというか脳と胃をすごく疲弊させるコンテンツなのは間違いない。しかし、制作陣はこの作品を重く深く受け止めることを視聴者側に求めていると感じるし、実際この作品がトライしてる問題自体はもの凄く向き合う価値あるものだと思う。だから、描くべきものを描いている姿勢をとても良いと思うし、この先もずっと追い続けて考えていきたいです。

 

 何が言いたいかというと、とにかく見てない人は1期→RoL→劇場版→EXODUSの順で見てくれ。

 

 

 

3、ネタバレ全開語り

 ファフナーについては正直、複雑すぎて全然理解が足りてない部分が非常に多いです。素晴らしい考察ブログが多々あって、読むたび「なんだこの人…エスペラントなのか?」ってレベルで感動するので、そこには全く及ばないのは自覚した上で、書きたいことを書きなぐります。ご容赦ください。

・テーマの変遷

  そもそも平和とは「非戦時」だと定義すれば、竜宮島がいう平和(おまつりやったりとか)って全部演技になっちゃって、平和ではないんじゃないかっていうのが、ファフナーシリーズに対して抱いていた最初の疑問でした。でも、例えば自国は非戦時でも、世界のどっかで戦争してたらそれは本当の平和ではない、と考えれば、本当の平和なんてこの世界にあったことは多分一度もない。一騎が平和だと信じてた頃の夢を見たいと言ったように、主観的には平和な時代はあるかもしれないけど、客観的に見ればそんな時代はどこにもないことになります。そのなかで何を竜宮島が残したいのかといえば、普通に学校行って勉強したり、みんなで遊んだり、家族でご飯を食べたり、祭りでいなくなった人に思いを馳せたり、そういう普通の感覚を大事にできる時間なんだろうと思います。そして、それが竜宮島の平和であり、そういう時間を戦時でも作って共有することが、あの島の目的といえると解釈しています。

 しかし、今シリーズで竜宮島は、より外の平和のために、島の平和を危険に脅かしてまで島から外の世界へ希望を送り出し、その選択が島の眠りと全島民のEXODUSという結果をもたらした。そして、その選択の結果に至る各人の物語を描いた。

 エメリーたちとの邂逅や新ミールの到来という致し方ない要因があったとはいえ、外の世界と関わらずに島だけで生きていくという選択も出来たと思うけれど、そうしなかったのは人類最大の希望である美羽をもつ島の意義と責任を、真壁指令がより長期的な観点からみて判断したからなのだと思います。その判断はおそらく正しかったし、そうしなければ島はもっと早くに滅びたかもしれない。しかし、選択の結果島は沈み、住民全てが故郷を離れることを強いられ、多くの島民が命を失い、生き残った者も平和を失った。それでもそれが最も希望に満ちた未来だというあたり、もはや世界の状況は最善手を打ち続けても落ち続けていくような絶望期にあるといえる。しかし、そのなかでも希望と責任を失わないものだけが生き残り、存在し続けていく。生きるということは、そういう苦しみ・痛みのなかにあるもので、じゃあそういうなかで各人がどう役割を果たしますか、世界を祝福しますかっていうのが2期のテーマだったと思います。

 

・ロボットアニメとして

 格好良いとかっていう感情以上に、もうそれ以上戦わなくていいよ!っていう感情がでてくるのがファフナーの凄いとこだと思います。9話はそれが顕著でしたね。もの凄い無双で、めちゃくちゃ格好いいんだけど、当の本人たちは命を削っているんだという前提をこれまでに深く刻まれすぎてて、全然喜べないという。総士のポエムは毎回恒例でしたが、個人的に9話のが一番好きです。ついつい「ザイン二ヒト強えーー格好ええーー!」ってなる視聴者に対して、「これは相手の大事なものを奪ってるんやで」っていうお灸をすえてくる。分かり合おうとしている彼らからすれば、自分たちの同胞を守るために相手を消滅させるというのは当然求めていた選択ではなく、仕方のない行動であって、それに対して爽快感を感じる自分を嫌悪したくもなるような、ジレンマを感じさせるポエムでした。

 

・楽曲について

  angelaなしにファフナーはないというくらい、いつも作品に寄り添った楽曲を作ってくれる素晴らしいユニットで好きです。イグジストの「痛みさえ 通じ合えば」という歌詞がものすごくファフナーだし、「DEAD OR ALIVE and GO」という歌詞には生死の渦巻く中で、そのどちらもが確かに存在し、その存在の情報は先へ進むんだという希望が込められているのかなと。「ホライズン」も地平線にたどり着こうとする彼らのもがきが伝わってきます。そんな中で、特に人物に寄り添った楽曲が「その時、蒼穹へ」「暗夜航路」、そして「愛すること」。「その時、蒼穹へ」はファフナーの紛れもない主人公、一騎と総士の関係の辿り着いた成熟性というか、劇場版のときの総士病とかを思うと「君となら」まで来たんだなぁ…と感慨深くなりました。「暗夜航路」は最終回で流れて、ああこれ真矢の曲だったのかと思いました。自分の命の使い道をある種潔く見つけていく2人と比べ、真矢は確実に状況に選ばされているし、他者を犠牲にできるよう人間性を変えることを強いられている。その苦しみの種類が、他の子たちとは異なるもので、本作は真矢にとって大きな転換期だったのだなと改めて感じました。「愛すること」は、カノンのシンプルで強く儚い生き方がしっとりと胸に落ちるような詩でした。

 

・一騎、総士、真矢

  この3人の関係って不思議ですよね。3角関係?であり、しかし恋愛としては物理的に何一つ進展しないまま、精神的にはとても強靭な信頼関係で結ばれてきた。

  総士ほど子供のころからこの平和を譲ってもらったものと受け止めてその責任に尽くしてきた人はいないと思うし、彼の場合、自分の世代に平和を譲ってくれたのが大人の世代だけじゃなくりょうやゆみというとても近い先輩達、同世代だったことを良く知っている。だからこそ幼さに甘えてはいけない、年齢問わず責任を果たさなきゃいけないことを強く背負ってきたんじゃないかと思います。そんな総士を、2期では同期の仲間たちが支えて、時に指揮して闘う。これまで総士が背負ってきたものをみんなで共有し、主従ではなく共に戦っているというのが、胸にきますね…。フェストゥムの側に痛みをもたらし、その役目を全うし、次の世代へ希望をつないで居なくなった総士総士個人としても、最後に凄く救われたんじゃないかなと感じました。でも生まれ変わったとはいえ、次作から君がいないのは、とても寂しい。

 一騎のことは、よくわからないです(笑)1期はいなくなりたい願望で対話下手のわかりやすい奴だった気がするんですが、2期は悟ったような部分が出てきて掴みにくい人になったような。戦いたがる、自分の命を使いたがるところが変わらないのは少し哀しいですが、それでも何のためにという部分がどんどん外を向くようになったのは、大人になったということなのかなと感じました。そろそろ真矢と進展してもいいと思うんだけど、その前に二人とも親的な何かになってしまったので、もう二人で両親をやればいいんじゃないかと思うよ…。

 真矢はある意味EXODUSの主人公でしたね。もっとも人のことをよく見て寄り添う子だった彼女が、人との戦いを担う存在になるというのはとても哀しいことだなと。他者を深く理解できるからこそ割り切れる、深く想えるからこそ優先順位をつけて犠牲にできる、という方向へシフトするなら、この先真矢の背負う者はもっと増えていくのだろうと思います。その責任を背負う覚悟も後戻りできない状況も出来てしまったし…。真矢はずっと、翔子の「一騎の帰ってくる場所を守る」という生きざまをどこかで背負い続けていると思うんですが、弓子の美羽への愛やカノンの想いも背負っていくのだとしたらさすがに折れそうな気がするので、支える人がいてほしい。それが一騎なのか美羽なのかはわかりませんが、責任の分強くなれてしまう、変われてしまう彼女にもまた、地平線が必要なんだろうなぁ。

 

・17話

  イグジストのOPでカノンが真矢と同列の扱いを受けている時点で結構察していたんですが、13話の犠牲~のポエムで「あ、今シリーズでカノンいなくなるわ」と確信しました。しかし、そのあまりにもカノンらしいいなくなり方にもうなんだか悲しいやら美しいやら苦しいやらなんやらで凄く泣きました。17話は間違いなく「誰かがいなくなること」を描く中でももの凄く美しい描き方だったし、それと同じくらい哀しい話だった。死に上も下もないとはいえ、カノンの死は間違いなく多大なる島への貢献によるもので、まさにこの上なく意味のある死だった。でもそのことよりも、最期の瞬間にカノン自身が流した涙と想いのほうが、ずっと心に残り続けている気がします。彼女の導いた未来は島と島の人々に残り、その愛情は視聴者に残るって感じなんですかね…。向こうで翔子と出会えていることを祈りたいです。

 

・島の子供たち

  自分が何のためにここにいるのか、をこれほど納得して生きている子供は多分竜宮島以外にいないんじゃないかな。EXODUSは、広登と暉の物語でもありました。

 冲方さんの脚本は素晴らしいと思ってるけど、正直広登についてだけは、その先を描くべきだったんじゃないかと思います。広登はあの年にしてあまりに成熟したまっとうな考えの青年で、まさに「早熟な実」だったから、暉や島のみんなにとっての向かうべき方向性やその心向きを示すまさにアイドルとしての役目は、正直EXODUS開始段階で果たしていたとも言える。ファフナーでは出来上がった人物(生き方を見つけた人、全うした人)から居なくなるので、広登のようなまっとうな若者が人の悪意に打たれるという絶望を示すことで、最大級に人同士が分かり合うことの難しさを描いたという点、人物として役割は全うしている。でも、彼は同世代にとって、暉たちにとっての希望だったわけで、この絶望的な状況をどう広登が生き進んでくれるのかを、個人的には見たかったです。まさしくみんなの希望になる人だっただけに。

 暉は、そんな広登の惜しさをわかっているからこそ彼の思いを継いだし、あんなに「島以外で死になくない」と言っていた彼がシュリーナガルを守って居なくなったことは、派遣部隊がもたらした成果で希望だったんだと思います。でも弟が姉と祖母を残して行くもんじゃないよ…彼が大人になって、子供たちに外の世界のことを伝えるさまを見てみたかったです。あと余談だけど、一騎を好きになる子も真矢を好きになる人もみんな居なくなるというのがまた哀しいですね。

 

4、その他

  beyondがこの先どんな未来を描くのか予想もつきません。こそうしの反抗期だとすると、なんだか1作目に戻っちゃう感じがするし、テーマ的にはやっぱり別コミュニティの共存を丁寧に描いて欲しいです。あとは、いちファンとしては、完全に大人側になった島の子供たちが生存限界を迎える前に、何か幸せな、それこそ平和な姿がみたいです。

 長文駄文に付き合ってくださりありがとうございました。

 

BS世界のドキュメンタリー『難民審査官 決断のとき』感想

1、番組について

 BS世界のドキュメンタリーという、NHKBSの番組があり、世界各国の良質なドキュメンタリーを放送しています。

 私はBS世界のドキュメンタリー自体素晴らしい番組だと思っていて、世界の今の問題を当事者に迫りながらミクロに考えることができる貴重な機会をくれます。製作者は各国の公共放送だったり民間だったり複合だったりと様々で、もちろんメディア自体の利害関係はあると思うし、誘導がないとは思わないけど、多くの場合、事実を捉えることに長けたメディアが作ったものを選んでいるという印象を受けます。自宅や国内にいると知り得ないことを多く学べるので、個人的にはもっと広まって普通にみんなが見るようになればいいのにと思っています。不謹慎な言い方かもしれませんが、とても見やすい構成でテーマも毎回はっきりしているので、そこらの表面的なニュースやバラエティーを見ているよりずっと面白いと思っています。

 この回はドイツの難民審査官達の仕事の様子と、審査過程について、関係当事者のインタビューをまじえ構成されています。制作はZDF(ドイツ、2017年)。

 

2、内容について

 ドキュメンタリーを見てどう思った~みたいな感想を書こうと思ったんですが、ドキュメンタリーって感動するものというより知るためのものだと解釈しているので、提示される事実や作品の内容をできるだけ切り取って書くよう努めます。書き方が下手なのは修行中なので甘く見てやってください。

 難民審査官は、難民申請者から聴取をうけ、その滞在資格を判断する仕事。以前は300人台だったのが、1700人台に増員。5週間の研修ののち仕事に入るとのこと。2016年の難民申請者が74万5545人で、前年からの持越しを加えると100万人を超えるらしく、増員後の人数でもとても対応しきれない数であることは一目瞭然ですね。審査の効率化のため、経済的な理由で申請する人々が多いバルカン出身者を、必ずしもドイツ滞在の切迫性が高くないとして先に判断に回し、その後時間のかかる他のケースの人々を審査する、という手順にしているそう。この手順が適切とは正直思いませんが、一時的な措置として仕方ないですかね…。後者の場合、申請から聴取まで1年以上待つケースもあるようです。

 最初に紹介されたイラン国籍の男性は、大統領選挙で6,70%が投票したはずの人が当選しなかったことに抗議のデモをしたら逮捕され、その後6年間収容された。親族による保釈金で一時釈放されたが、同じ状況の人が死刑宣告を受けたケースを沢山知っており、イランを出国してきた、という主張をしています。聴取中、大学に通っていた経歴もあり教育を受けた人間なのに、ドイツに来る際どの国を通ったかわからないという点を審査官から指摘される。しかし、とても聞ける雰囲気ではなかったのでわからない、と彼は答えます。

 主張通りであれば、正しいことを主張して投獄された悲惨な経歴であり、自国に戻れば理不尽に死刑となる可能性も高いが、そもそも彼の言っていることが真実とは限らないので、その判断を審査官はしなければならない。しかし通訳も宣誓認証を受けていない、難民申請者の権利も尊重しなければならない、という状況で、嘘と思ってもそれをすぐに厳しく指摘し追及することは困難。裁判と違い相手はパスポートも持たない身一つの状態で、満足な判断のできる証拠も集まらない。そのなかで人生を左右する滞在資格の認定判断をバンバンしていかなければならないというのは、とても重く判断力を要する仕事だ感じます。

 以前は2つだった判断基準も、現在は膨大に増え、審査時間は伸びるし判断も複雑になる。そして判断を誤ると自国に危険が及ぶ、という厳しい立場。番組で取り上げられたベテラン審査官も、厳しさと仕事のやりがいや楽しさのバランスを持ってることが重要という趣旨のことを述べていました。

 基本的に聴取は録画されるようですが、人によっては出国事情が家族に危害を及ぼしかねないので録画は絶対にしないでほしいというし、そういった適正手続きの客観的担保も難しい事情があるようです。

 一方、審査に立ち会う弁護士は、難民申請者が真実を話していると信じて対応する。

こうした弁護士をつけてもらえる権利を確保されることで、審査過程の適正さもある程度担保されるということみたいです。

 

 視聴していて驚いたのは、審査官各人の裁量や人的判断力に委ねられている部分が非常に大きいということ。審査項目があるとはいえ、真実を話しているかわからない以上、極論を言ってしまえばその難民申請者が信じられるかどうかで決まる部分がほとんどなはずです。聴取の鮮度が重要とされていて、その分判断期間も基本3か月以内と短いことからも、話していて信頼できるかを重要な判断要素としていることがわかります。上層部も審査官の判断について法的に大筋をチェックするのみ。事実認定はほぼすべて審査官の裁量と責任ということですね。審査官もインタビューで、国に代わって私のような個人が判断している、と表現している。でも、それは今の世界が直面する問題からすると、自然な流れだとも。

 

 審査官は毎日膨大な量の申請者祖国の情報(治安、政府の状況等)を仕入れており、ドイツへの渡航にかかる金銭的負担や重圧も普通の人よりよほど専門的知識をもって理解している。けれど、申請者にとって良くない決断を下さなければならない場合も多いわけで、その責任も、恨みも一手に引き受ける。そういう仕事なんだということが少し知れたように思います。彼らは当事者であって、情よりも優先すべき規定や立場がある。

 しかし当然、すべての情報や事実を分かったうえで審査判断できるわけではないし、規定そのものが政治的判断によるもので、ケースに適用したとき不合理な結果となる場合もある。そう言った事案では、政府や行政と異なる独自の判断をできる司法への異議申し立てが行われ、現に申し立てられたケースの13%は申請者の有利となるよう覆されているとのこと。

 

 紹介された人々は落ち着いたケースが多く、これが審査のすべて、またはアベレージとは思わないですが、少なくともその一端を見れたと思います。

 肯定的に判断されたケースでも、見方によってはドイツにとってのリスク、あるいは財政への負担となる。しかし彼らのこの先の生活や仕事、学問にとって必要な判断であることも間違いない。ここで認められた人々のその先も見れるなら見たいと思いました。

 

 

 

 

響け!ユーフォニアム『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編』感想

1、作品について

 ユーフォニアムシリーズ原作の最新刊。久美子2年生編です。

 

2、ネタバレなし感想

 今日発売で、読み終わったので新鮮なうちに感想を。なんかブログの記事がほぼユーフォの感想になっちゃってますが(笑)

 自分は大分どっぷりのユーフォファンな気がする、というか作者の武田先生への信頼が確立しちゃってるので、小説としてあんま批判的にみることがもうできなくなっている面があります。しかし、それを考えても、今回の後編、一言でいうと、めっっっっちゃ良かった!!! 前篇は、前作のあすか問題の大変さを考えると、新入生の問題は大変っちゃ大変だけど小さくも思えていました。終盤の展開(ユーフォ3人のシーン)は凄くアツかったですが。

 しかし、後編はもうのっけから凄く引き込まれ、あっという間に読み終わりました。読んでいる間いちいち胸が痛くなったり、登場人物の成長や決意に何度も心打たれました。

 旧3年生が抜けた北宇治が部として輝き続けられるのか、そんな杞憂を一蹴し、眩しいほどの優子世代北宇治を届けてくれた。そのことに感謝しかないです。

 いやー、面白かった!!

 

3、ネタバレ全開語り

 新刊のネタバレしかありません。ご注意ください。

・希美とみぞれ

 本作の主軸である2人。希美が一番のみぞれと、みぞれを普通に好きな希美、という構図は本作で大きく転換し、互いへの強い感情が進路を通して演奏を揺さぶっていく。

お互いへの感情の熱量は本作でとても高くなってある種釣り合っていますが、嚙み合っていないという部分ではやはりいびつで、そういうズラし方をしてきたのはめちゃくちゃ上手いなと思いました。リズと青い鳥に似た関係性の真の意味も、見事に二人の関係の転換とマッチしていて、もはや心地よいレベル。

 それにしても、みぞれの強者っぷりは凄かったですね…。奏者としてここまでの魅力を秘めていたとは。ちょいちょいかましてくるボケっぷりやしぐさの可愛さも含めて、今作で魅力がうなぎ上りになった気がします。

 希美は、昨年からその脳筋さや明るさが軽い感じがユーフォの中でも異様な人物だったと思います。それが今作、これだけ特定の人に嫉妬して、執着したというのは、ある種驚きでした。希美は内面に人間らしい負の感情を抱えていて、それにたいして真っ直ぐな子だなと思います。部長であり、優れた奏者であったというどこかアウトサイダーな側面から、北宇治を構成する大切な一員として、自分のいるべき場所を本当に見つけられたのだとしたら、今作は希美にとっての大きな試練であると同時に、より大きな才能を前に闘わなければならない強者達へのエールでもあったのだろうと思います。

 

・優子部長と夏紀

 部長として最大級の輝きを放っていた優子。随所随所でリーダーシップが素晴らしく、お前、カッコ良すぎか…って感じでしたね。

 正直、1年生編の頃はこれほど魅力的で力強い部長になるとは思っていませんでした。ただ一人への愛を全力で貫ける魅力が以前からありましたが、その対象が北宇治高校吹奏楽部の全国金賞、になると、こんなにも頼もしいのかと。

 始終部内の人間関係に気を配りつつ、どうしたら昨年を超える演奏になるか、常に適切な判断で部を引っ張っていく、凄い統制力だと思います。目的を達せられなかったとわかると、すぐ翌年に向けて最善の手を切れるところも、本当に理想のリーダー像ですね。夏紀との痴話げんか(笑)や香織大好きっぷりで身近さがついてますが、手の届かないくらい優れた人物に成長していて、その凄さにゾクッとしました。翌年に向けて久美子を動かしていたなんて、なんという策士。頑張りすぎる描写もありましたが、それがないと逆に完璧すぎるくらい。それでいてあすかのような距離を感じないのは、その優しく真っ直ぐな人柄ゆえなんでしょうね。優子まじ半端ない。

 そして、それを支え切った夏紀。奏者として目立つ活躍はなく、人間関係についても本作は久美子に譲った印象が強いですが、副部長として優子を支えられる唯一の存在としてその役目を自覚し、見事やりきっていたと思います。奏のような年下の子に普通に教えを請いたり、希美を追いかける役を久美子に委ねたりと、本当に自分の立場を正しく捉えて動ける点、賢い子だと思います。その分、弱気な本音を久美子に漏らす終盤の場面はグッときました。カリスマ性や奏者として強い立場になれないからこそ、そういう存在への憧れはきっと大きかったのだろうなと思います。それを心にとどめて役目を果たし、そのことを「ラッキー」と受け止められる、夏紀のおかげで今年の部が上手くいったのは、間違いないと思います。

 

・結果について

 今年全国に行けないという展開は予想していましたが、まさかダークホースが出てくるとは…。求との親子関係で、もうひと悶着今後ありそうですね。

 ここまで全体のレベルが上がってしまったコンクールでは多分、明確な上下なんてつけられるものではないのかもしれないですね。北宇治が上に行くか、他の強豪が上に行くか、拮抗する超ハイレベルな学校が全部いい演奏をしたなら、あとはもはや運の領域なのかなと思います。当事者にとってはこの上なく残酷なことだと思いますが。

 その分、欲しかった結果は得られなかったけど、お客さんからのもの凄い拍手を得られたというのが、とても良い描写だなと思いました。彼女たちの演奏が、音楽として素晴らしかったという証明として、この上ないものだと思います。

 

・卒業生たち

 3年好きとしては、葵が音楽を続けているというのは嬉しかったです。本当に良かった。晴香と同じサークルというのは、また面白い縁ですね。確かに、卒業してから仲良くなるってあることだし、枠から解放された二人の晴れ晴れした表情を知れて、とても幸せな気分になりました。

 あと、あすかと香織は付き合い始めたの?原作HPの北宇治だよりで香織の後悔が綴られていましたが、この二人は両想いになったようで、良かったというか、良かったんだよね?なんか混乱してますがw 香織にとってのあすかは、他の人が言う「特別」とは異なる「特別」なんだなと、凄く納得しました。それにしても一途だな香織…。

 あすかはちゃっかり次作への伏線も残していくあたり、さすがですね。もしかして実家を出たのかな。あの絵葉書が使われる未来を想うと、いまから楽しみなような怖いような。

 

・チーム黄前

 正直、部長は緑輝になると思っていたので意外な展開でした。確かに、メンタル強すぎて、逆にあれなのかな。

 久美子は今作で人間関係調整のプロとして稀有な存在に昇格した感がありますね。いままでの探偵気質からさらに踏み込んで、なにか色々な事をちゃんと受け止めて、良い方へ人を導ける、そんな凄い人になりかけている気がします。

 そして、それを支える副部長秀一。前々から優しくも強く久美子を支える存在としていい男っぷりを発揮していましたが、秀一に支えられすぎることへの久美子の不安も垣間見え、別れたことで、今後二人の関係が一層複雑に深まっていく気がします。あと、秀一といるときの久美子が作中最高に可愛いと思った(笑)

 麗奈がドラムメジャー、そして演奏クオリティの担当というのは、誰もが納得の配置ですね。今回ののぞみへの励ましといい、ゴーマイウェイだった麗奈が、北宇治全体のクオリティのために動くようになったというのは、とても大きな成長だと思います。厳しい側面を担当することがこんなに似合う人もなかなかいないし、つくづく説得力のある存在ですね。3年時の麗奈、カッコいいんだろうなぁ。今からめっちゃ楽しみです。

 

4、その他

 月永家やあすかのハガキ、なにより全国金賞を逃したことでもう明らかですが、久美子3年生編ありますよね。正直北宇治のみんなが輝きすぎてて見ていて大分眩しいです(笑)。彼女たちの頑張りに恥じないよう、いち読者として日々頑張りながら新刊発売を待とうと思います。

 

司法試験に落ちた人へ

こんにちは。あるきっくと申します。

今回は感想ではなく、司法試験について、不合格だった方に向けて少し書かせてください。

具体的な勉強法に突っ込んだ話ではありません。今結果がでなくて苦しんでいる人に何かこうしなよ!と強く勧めるものでもありません。ただ、自分の経験をつらつら書いてます。言いたいことのニュアンスが少しでも伝わると嬉しいのですが、もし読んでみて、ただの自分語り・自慢話にしか感じなかったら、この記事のことは、どうしようもない奴が書いたクズ記事だと思ってスッパリと忘れてください。もうすでに次への決意をしっかりと固めている人や、モチベーションを確立できている人にとっても、あまり意味のない記事だと思うので、スルーしちゃってください。

 

私は法科大学院を出て、1回目短答落ち、2回目で最終合格しました。一回目落ちた時、というかその直前期くらいからめちゃくちゃ精神状態が悪く、不合格以降「司法試験 落ちた」でググりまくっては絶望的な未来しか描けずにいました。当時のことを思うと軽いうつ状態で、本当に人生の危機でした。いまもし同じ気持ちでいる人がいたら、以下だいぶ脈絡ない文章ですが、目を通していただけたら幸いです。

 

私が受験前から精神状態が悪かった理由は、モチベを失いかけていたからでした。

10歳のころ、「司法試験に受かって弁護士になり、人の役に立つこと」を夢として設定し、そこから10年ちょい順調にそこに向かって歩んでいたのですが、ロースクールに入ってガチで命がけで(仕事やキャリアを投げうってローに入って)法曹を目指す人たちや、才能と努力を兼ね備えた本物の天才たちに出会ってしまい、端的に言えば挫折しました。そして、自分がなぜ法曹になりたいのか、本当にそれがやりたいことなのか、という一番の気持ちに向き合ってみたところ、法曹への想いがかなり曖昧になり、試験勉強のモチベをほぼ失ってしまいました(これがロー卒業ちょい前くらいの時期)。

モチベがないことが頑張らない理由にはならないんですが、マイナス思考がマイナス思考を生んで、法科大学院制度を恨んだり、それを作った官僚を恨んだりして、どんどん集中できなくなっていきました。

 

実感として、司法試験は「正しい努力」を「一定程度」積めば合格する試験だと思います。でも、一部の天才以外の人にとっては、その「正しい努力」の見極めや調整が結構難しく、「一定程度」が他の試験の比じゃないレベルである、という点で、非常に難しい試験だと思います。

なので、しっかりとしたモチベ抜きでは突破困難です。モチベがあっても、強い思いでなければやはり上記の努力を続けるのは難しい。

 

私の場合、一回目のときは上記のようなモチベ不足の結果、準備不足・自信不足に陥り、短答落ちしました。

短答の自己採点で落ちたと知ったときは、めちゃめちゃ情けなかったです。ローで多額の学費をかけてもらって、皆に応援してもらっといて、短答で落ちんのかよっていう感じで。6月中は毎日意味もなく涙が止まらない、みたいな日々を過ごしていました。

 

ですが、とにかくこのままでは自分の人生が本当にダメになると思い、とりあえずこの先の方針を何でもいいから考えることにしました。

そのために、一度本当に自分のやりたいことを考えたのですが、結局のところそんなものは大して見つかりませんでした。今まで司法試験に受かって弁護士になるというルートで生きてきたため、他のルートはどうもしっくりこないし、かといって弁護士になって凄くやりたいことがあるわけでもないんだけど、とにかく路線変更しようにも全部逃げみたいに感じられてしまう、という感じでした。

逃げとしてでなく、別に本当にやりたいことが見つけられる人は、迷わずその道を行けばいいと思います。その選択は逃げではなく正しい「勝ち」の選択だと思います。

でも、私の場合、とにかく「司法試験合格」がこの先どこにいくにせよ、自分の人生を良いものにするための主観的な「要件」になってしまっていました。これは他人から見たら、手段の目的化ってやつなのかもしれません。某司法試験予備校の先生にいわせれば、大事なのは結果ではなくその先で何をしたいか、のはず。司法試験はあくまでその手段でしかない。これまで何度も聞いてきた言葉でした。たしかに、目的なく司法試験合格だけのために司法試験を受けるなんて、ダメなのかもしれない。志望動機としては本当にダメなパターンですよね。このことで本当に何日も悶々としていました。

しかし、悩みすぎてよくわからない状態になっていたある日、受験を辞めると決めた友人に会い、そこで言われました。

「お前は辞めない方が良いよ。なんか、未練ありそうな顔してるから」

未練ありそう、確かに。前回モチベのない状態でなーなーで受けて、落ちて、やりきれなかったことが、未練ある。すごく未練ある。

そこから、もう一度冷静になって試験について考えました。そして、自分のプライドのため、これまでの勉強に意味を持たせるため、将来の選択肢を増やすため、周りに逃げたと思われないため、そして何より自信をもつために、私にとっては司法試験合格が必要なんだと気づきました。

そういう理由で試験を受けることが正しいかどうかはわかりません。手段の目的化も甚だしいかもしれない。でも、もはやそこまで思える対象に出会えたということ自体が、幸福な事だったんじゃないかなと、開き直りました。

 

その上で、ずるずると受験生活を続けないために、次の受験を最後にする、と決め、そこに向けて全力でやりきることに決めました。つまり、全力で①「受かるためにすべきことは何か」を考え、それを②「物量的に全力でやりきる」、という決意をしました。

具体的には、インプットについて、①自分なりに試験に必要なことを網羅した一元化ノートを確保し、②それをちゃんと意味と答案表現を意識しつつ何十回も反復しまくる。

アウトプットについて、①良い問題(過去問や初見の答練など)を②ちゃんと2時間で書く練習をしまくり、人に添削してもらい、良問は何度も解きなおす。

という感じでとにかく週一の答練以外は毎日自宅にこもって必死に机に向かいました。

私は自頭がだいぶ悪いので、こういう愚直な努力しかできませんでしたが、それでもこれが思いつく限り最善で、これ以上のことができないんだから、これでダメだったらもう諦めがつくと思いました。

途中、涙が勝手に出てきすぎてノートが読めないとか、腰を痛めて机に長時間座れないとか、嫌な夢ばかりみて寝れないとか、なんか辛いことが沢山ありました。一番悪い時は遺書の答案構成とかしました。そのときはさすがに自分でもヤバいと思って、割と直前期でしたが、思い切って友人と温泉に行きました(びっくりするほど楽しかった)。

恥を忍んで友人に超つたない答案を見てもらったり、直前期クソ点数の低い答練の結果も吐きそうになりながらなんとか復習したりして、とにかく自分のダメな部分と向き合って、決めたスケジュールを着々とこなしていきました。

 

で、本番前日。もうここまでやってダメならええわ、という感じで、最低限の教材をもってホテル入り。はやめの時間に布団に入りました。しかし、寝かけた時にラインがきて起こされました。前日なのになんだよ、と思って携帯の画面を見たら、ロー時代の友人たちからの「がんばれ!」っていう写メ付きのメッセージが届いていました。

数ヶ月連絡をとっていない友人たちだったので(落ちてる身分だから受かった子に連絡を取りづらい)、完全に予想外で、ひとり嬉し泣きしました。それまでも人生で辛いことや嬉しいことは色々ありましたが、多分この時が一番「自分、幸せ者だなぁ」とおもいました。

 

結果、本番は努力のかいあってか「どのくらい書ければ合格答案か」がだいたい感覚としてつかめて、割と心のゆとりをもって臨めました。最終日の短答刑法は大分知識が抜けていて焦りましたが。それでも、自分で決めた勉強をやりきった感がもの凄くあって、そのおかげでミスしても悔いはありませんでした。

 

結果が合格だったから、今こうやって一部始終をスラスラかけている部分は大きいと思います。でも、私にとっては「やりきった」という感覚や、受験期にそれだけ命がけで挑めたという記憶を得られたのが、ものすごく良かったなと思うんです。人生でそんなにすべてを懸けて挑むことなんてきっとそう多くないし、何よりこんなに人の優しさが身に染みる時間は他にないと思います。

一発合格の人に比べたら、不合格経験は本当に苦しいもので、孤独で、キャリアとして停滞した時間だったと思います。家族にも周囲にも沢山迷惑をかけて気を遣わせたと思います。でも、落ちたからこそみじめな気持ちを味わって人にやさしくなれたし、自分の情けなさを知って、もっと良い人間になりたいと思うようになりました。このことが、凄く人生にとって良かったと思います。

 

長々書きましたが、だからどうしろってことは何も言えないです。司法試験は、軽々と来年もとりあえず受けなよ、とか言っていい試験ではないと思うし、選択はひとそれぞれで、その意味づけもその人次第だと思います。

でも、もしやり切りたいという気持ちがあるなら、すべてを次の一回に懸けて挑むというのも、アリだと思います。

頑張っている人のことは、誰かが見ているし、何より頑張った人は、周りの頑張っている人に気付くことができるようになります。

少なくとも私にとって、不合格後の1年間はかけがえのないものになりました。

これを読んでくれた人にとっても、この先の1年が価値あるものになることを、切に願っています。

 

司法浪人の苦しみを知り、運よくそこから先へ進めた身として、何かできないかと思い、書かせてもらいました。もしこの記事を読んで嫌な気分になったという方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。至らぬ点をお赦しいただければ幸いです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

劇場版響け!ユーフォニアム『届けたいメロディ』感想(2回目追記しました)

1、作品について

 響け!ユーフォニアム2を、久美子とあすかを軸に再構成した劇場版。

 

2、ネタバレなし感想(シーンのネタバレとかはないですが、見る価値を伝えるべく普通の総集編との違いは書きます)

 ゆーて総集編やしな、と思って見に行きましたが、これは総集編とは言わんわ(笑)

 大胆な構成変更、大幅な新規カット、新規アフレコ、演奏シーン大量、BGMほぼ全変更等によって、あたらしく一本の映画として生まれたという感じでした。初見さんも見て一本の作品として凄く楽しめると思うし、テレビシリーズを見た人も新たな視点で見て新しい感動や幸福感を得られる作品だったと思います。

 というか、序盤からよくぞここまで構成思い切ったな…と驚きました。監督英断だったと思います。初監督でこれだけ思い切れるって凄い。

 ユーフォはある種、久美子とあすかの物語で、テレビシリーズを久美子視点とすれば、この作品はあすか視点といえると思います。それぐらいあすかについてしっかり描かれていて、見終わった後あすかへの印象が少し変わりました。

 演奏シーンの臨場感や格好よさも増していて、これはぜひとも劇場で(できればいいサウンドの劇場で)多くの人に見てほしいです。自分は川﨑チネチッタのlivezoundでみて、音の迫力に心躍り、ユーフォの音色の優しさに酔いしれました。演奏シーンの新規カットも想像以上で、かつ物語の中で凄く意味づけがしっくりきました。

 テレビシリーズのときともまた違う、とても満ち足りた気持ちになれる映画でした。

 もう一回見に行きたいな。

 

 

 

3、ネタバレ全開語り

 

 

・冒頭

 原作のプロローグの部分をさらに膨らまして描いていましたね。少女あすかからのプロヴァンスフル、この流れだけでもう劇場に見に来てよかったわ、という感じでした。指紋がついちゃう描写が原作時からすごく好きなので、入れてくれて感謝しかない。

 小1あすかの川沿いで友達と歩いているシーン、あすかにもこういう時代があったんだなぁと気づかされつつ、やっぱりどこかみんなの中にいても孤独がある感じで。家でも一人で本を読んでる生活、こういう幼少期を過ごしていたら、そりゃ届いたユーフォにドキドキするだろうなぁと納得しました。仕草がいちいち可愛くて、そのあとのコンクールどうでもいい発言を見ると「ここ十数年でどうしてそうなった」と少し切なくなりました。

 

・母親

 今回の映画で一番驚いたのは、あすかと母親の家でのシーンが追加されてたことです。普段は、普通に親子なんだなぁと。あすかは親の分も晩ご飯を毎日作って、母親もはやく帰ろうと娘のために一生懸命外で仕事して、そういう親子の情がある二人だけの空間がいつも続いているんだなと。その一方で、自分のペースで話す母親と、あすかの親に気を遣うふるまいから、2人の距離感もつかめて、少し棘もあるシーンでした。

 あすかの母親も、あすかのため、という善意で毎日頑張ってるんですよね。それが娘にとっては枷になっているけど、枷と言っている本人も、そういう態度が正解じゃないことくらいわかっているはずだし、母親に対する感謝や娘としての感情は確かにある。だからこそ父親のほうに心を尽くすことが後ろめたく、母親との関係を悪くしているユーフォとどこかで区切りをつけなきゃいけないと思っていたのかなと感じました。

 

・模試

 全国模試を受け取って、結果を見て一瞬嗚咽するシーン。ユーフォシリーズで唯一あすかが明確に泣いたシーンでした。飄々としてるようで、全力だったんだな…、と。泣き声だけ凄く素のあすかで、でもそういう感傷を自ら一瞬で振り切って歩き出すあたり、強い子ですね…。あすかがどういう生き方をしていきたいのか、どういう姿勢でいたいのかが見える場面でした。

 

・演奏シーン

 全部良かったんですが、個人的に追加シーン満載の宝島フルがめちゃくちゃ好きでした。全体的に不穏な空気のある流れだったので、このシーンは音楽本来の明るさや楽しさが全開で、より一層輝いて見えました。追加の後半部分は曲自体楽しいし、モナカ含めみんな楽しそうに生き生きと演奏していて、見ていてウキウキしてしまった。滝先生も心なしかスマイルが全然粘着じゃない(笑)きっと根っからの音楽好きなんでしょうね。コンテが山田尚子さんだそうで、改めてやっぱすげぇなこの人…と思いました。

 追加シーンで、バリサクソロ後の晴香のアイコンタクトに対して、あすかがわーお、みたいな身振りでおどけて見せるんだけど、それをうけて晴香がキリッとした表情で向き直るシーン、めちゃくちゃ良かったです。晴香の表情がマジで格好良かった。今回の映画、主役は久美子とあすかだけど、晴香も魅力が爆発してたと思います。部員として、同期として、部長副部長としてではなく、演奏者同士の対等な関係や矜持のようなものが感じられて、輝いてたなぁと。

 プロヴァンスの風は曲自体哀愁と格好よさみたいなのがあって、ずっとフルで見たかったので歓喜しました(笑)トロンボーンの新規カットが特にスピーディで格好良かった。今までの演者の感情を重視した演奏シーンとはまた一味違う、楽器演奏の格好よさ、吹奏楽の格好よさみたいなのが見れて嬉しかったです。

 そして、三日月の舞。始まりの緊張感、信頼ゆえに麗奈が久美子を心配するようなアイコンタクトがなくなっていたり、三年生の表情により必死さが感じられたり(特に香織。良い意味でとても高校生らしい必死な表情が多かったと思います)、譜面書き込みが最後の演奏っぽくなってたり、ぐっと来た部分が沢山ありました。その中でも一番印象的だったのが、ユーフォソロであすかの視点になるシーン。客席を見上げて、お父さんに向けて音を届けたいんだけど、真っ暗でどこにいるかわからないんですよね。それでも届いていることを信じて全力でユーフォを吹くあすかに、切なくなりました。この瞬間のためにあすかはここまで必死に頑張ってきた、けどその瞬間に音を届けたい人が舞台上からは明確には見えないという不安感と、向こうは自分を捉えてくれていることを信じたくなる気持ちが凄く伝わってきて、普段よくわからないあすかの心情と見ている側が一番リンクした瞬間だったんじゃないかと思います。

 

・ラストカット

 あれは多分イメージですよね。久美子とあすかの関係って、恋愛でも友情でもただの先輩後輩関係でもなく、言葉にするのが難しいんだけど、人間関係として至上だな、と思います。多分、2人の関係自体がどうこうというより、この2人だから共有できている瞬間瞬間がもの凄く尊いものなんだろうなぁ。この映画を象徴するような、とても優しいシーンでした。

 

4、その他

 ユーフォは部活の面白さ、群像劇の面白さという枠を超えて、人を描くことに特化できるとても魅力的なコンテンツに昇華したと感じました。心の機微や一瞬一瞬の感情にこそ人生の意味が宿る、そう思える瞬間がたくさんあって、この映画を見ている時間が凄く幸せでした。制作陣に感謝しつつ、新作でも信じた「良いもの」に向かって突き進んでほしいし、それを見る側の人間として共有できたら本当に嬉しいです。

 

P.S. 2回目を先日みました。感想を箇条書き的にまとめときます。

・やはり川﨑チネチッタのlivezoundが素晴らしく良い音響だった。おなかに響く音と、臨場感が凄い。とくの真ん中の席で見ると、音にムラがなくてとてもバランスよく、かつそれぞれの楽器の迫力が伝わってきます。さらに演奏シーンだけでなく、細かいSEも非常に味わい深く聞こえる。ほかの劇場がどうだか知りませんが、個人的にはチネチッタでlivezoundでみると本作の魅力が数段アップすると思います。マジで、音って大事。

・フォトセッションも2週目の面白かったですね。なかよし川は色々うずまく北宇治内で唯一安心してみていられる安定したコンビだと再確認しました(笑)あと、みぞれが意外とちょいちょい喋ってて、みぞれってボーっとしているようで凄く芯のある、自分の考えを持った子だなと感じました。

・あすかに久美子が体育館うらで気持ちをぶつけるシーンのお芝居は、映画のほうがその場で生まれた感情のままに勢いよくいっている感じがしました。TV版も素晴らしかったのでどっちがいいとか比べられないですが、しいて言うならどっちも方向性が違って良い。「気になって近づく癖に~」というシーンがあすか自身のことを言っているようなニュアンスになっていたのも、良かったです。あすかのお芝居は、今作の主役視点な面があって棘があるというよりは自然みがでていて、これも好きでした。

・2回目をみると、1回目どうしても若干感じてしまった「TV版とのシーン・構成の違い、セリフの言い回しの違いからくる違和感」がなくなり、すべて流れの中で自然に感じられて、作品のメッセージをまっすぐに受け止められる感じがしました。普段2回も同じ映画をみないので、正直楽しめるかな…と不安だったのですが、そういう気になる点がなくなった分一本の映画として凄く新鮮に楽しめました。

・新刊読後だと、(こっから新刊ネタバレあるので反転します)三日月の舞のみぞれのソロのシーンで入る希美の微笑の意味が大分違って見えますね…。ある種の安心感というか、この時点ではみぞれの才能に対して何も危機感がないというか、優越感というか…うん。そう考えると、結構嫌な感情がでている微笑だなぁと思いました。新刊の内容を知らないと普通に友達の演奏を聞いている図なんですが…凄いですね。エンディングロールの絵柄も、学年順ではあるんですが、歌詞とかなりリンクしている気がしました。先を行く人は大きく見えるけど~のとこで夏紀がでてきて、新刊終盤であすか先輩みたいにと語るシーンをと被って勝手にジーンときました。希美で「才能」のワードが出た時も、ゾクッとしました。

 

・最後に、個人的には、2回目の方が感動しました。いままでユーフォで泣いたことなかったんですが(ウルウルはしてたけど)、今回2回目ではじめて涙が流れて、自分でもびっくりしました。これまでは「北宇治」の話、「久美子やあすか達キャラクターの話」として感動していたんですが、今回ははじめて自分自身が久美子の立場になってみることができて。麻美子が後悔を語る場面で、凄く自分の上のきょうだいのことを考えました。で、自分にとっての「あすかや麻美子のポジション」の人のことを想いながら久美子が想いを伝える場面をみていたら、びっくりするくらい涙がでて、驚きました。この作品は、自分にとって大事な人(その人の本当に望む生き方をして欲しいと自分が強く願っている人)に対して、思うように生きてよ!と必死に伝える作品なんだなぁと、実感することができました。そういう気持ちを得られたことが凄く良かったし、作品に感謝したいです。自分にとっての久美子や、麻美子やあすかが誰なのかを考えながら見てみるというのも、良いんじゃないかと思います。おススメです。