arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

BS世界のドキュメンタリー『難民審査官 決断のとき』感想

1、番組について

 BS世界のドキュメンタリーという、NHKBSの番組があり、世界各国の良質なドキュメンタリーを放送しています。

 私はBS世界のドキュメンタリー自体素晴らしい番組だと思っていて、世界の今の問題を当事者に迫りながらミクロに考えることができる貴重な機会をくれます。製作者は各国の公共放送だったり民間だったり複合だったりと様々で、もちろんメディア自体の利害関係はあると思うし、誘導がないとは思わないけど、多くの場合、事実を捉えることに長けたメディアが作ったものを選んでいるという印象を受けます。自宅や国内にいると知り得ないことを多く学べるので、個人的にはもっと広まって普通にみんなが見るようになればいいのにと思っています。不謹慎な言い方かもしれませんが、とても見やすい構成でテーマも毎回はっきりしているので、そこらの表面的なニュースやバラエティーを見ているよりずっと面白いと思っています。

 この回はドイツの難民審査官達の仕事の様子と、審査過程について、関係当事者のインタビューをまじえ構成されています。制作はZDF(ドイツ、2017年)。

 

2、内容について

 ドキュメンタリーを見てどう思った~みたいな感想を書こうと思ったんですが、ドキュメンタリーって感動するものというより知るためのものだと解釈しているので、提示される事実や作品の内容をできるだけ切り取って書くよう努めます。書き方が下手なのは修行中なので甘く見てやってください。

 難民審査官は、難民申請者から聴取をうけ、その滞在資格を判断する仕事。以前は300人台だったのが、1700人台に増員。5週間の研修ののち仕事に入るとのこと。2016年の難民申請者が74万5545人で、前年からの持越しを加えると100万人を超えるらしく、増員後の人数でもとても対応しきれない数であることは一目瞭然ですね。審査の効率化のため、経済的な理由で申請する人々が多いバルカン出身者を、必ずしもドイツ滞在の切迫性が高くないとして先に判断に回し、その後時間のかかる他のケースの人々を審査する、という手順にしているそう。この手順が適切とは正直思いませんが、一時的な措置として仕方ないですかね…。後者の場合、申請から聴取まで1年以上待つケースもあるようです。

 最初に紹介されたイラン国籍の男性は、大統領選挙で6,70%が投票したはずの人が当選しなかったことに抗議のデモをしたら逮捕され、その後6年間収容された。親族による保釈金で一時釈放されたが、同じ状況の人が死刑宣告を受けたケースを沢山知っており、イランを出国してきた、という主張をしています。聴取中、大学に通っていた経歴もあり教育を受けた人間なのに、ドイツに来る際どの国を通ったかわからないという点を審査官から指摘される。しかし、とても聞ける雰囲気ではなかったのでわからない、と彼は答えます。

 主張通りであれば、正しいことを主張して投獄された悲惨な経歴であり、自国に戻れば理不尽に死刑となる可能性も高いが、そもそも彼の言っていることが真実とは限らないので、その判断を審査官はしなければならない。しかし通訳も宣誓認証を受けていない、難民申請者の権利も尊重しなければならない、という状況で、嘘と思ってもそれをすぐに厳しく指摘し追及することは困難。裁判と違い相手はパスポートも持たない身一つの状態で、満足な判断のできる証拠も集まらない。そのなかで人生を左右する滞在資格の認定判断をバンバンしていかなければならないというのは、とても重く判断力を要する仕事だ感じます。

 以前は2つだった判断基準も、現在は膨大に増え、審査時間は伸びるし判断も複雑になる。そして判断を誤ると自国に危険が及ぶ、という厳しい立場。番組で取り上げられたベテラン審査官も、厳しさと仕事のやりがいや楽しさのバランスを持ってることが重要という趣旨のことを述べていました。

 基本的に聴取は録画されるようですが、人によっては出国事情が家族に危害を及ぼしかねないので録画は絶対にしないでほしいというし、そういった適正手続きの客観的担保も難しい事情があるようです。

 一方、審査に立ち会う弁護士は、難民申請者が真実を話していると信じて対応する。

こうした弁護士をつけてもらえる権利を確保されることで、審査過程の適正さもある程度担保されるということみたいです。

 

 視聴していて驚いたのは、審査官各人の裁量や人的判断力に委ねられている部分が非常に大きいということ。審査項目があるとはいえ、真実を話しているかわからない以上、極論を言ってしまえばその難民申請者が信じられるかどうかで決まる部分がほとんどなはずです。聴取の鮮度が重要とされていて、その分判断期間も基本3か月以内と短いことからも、話していて信頼できるかを重要な判断要素としていることがわかります。上層部も審査官の判断について法的に大筋をチェックするのみ。事実認定はほぼすべて審査官の裁量と責任ということですね。審査官もインタビューで、国に代わって私のような個人が判断している、と表現している。でも、それは今の世界が直面する問題からすると、自然な流れだとも。

 

 審査官は毎日膨大な量の申請者祖国の情報(治安、政府の状況等)を仕入れており、ドイツへの渡航にかかる金銭的負担や重圧も普通の人よりよほど専門的知識をもって理解している。けれど、申請者にとって良くない決断を下さなければならない場合も多いわけで、その責任も、恨みも一手に引き受ける。そういう仕事なんだということが少し知れたように思います。彼らは当事者であって、情よりも優先すべき規定や立場がある。

 しかし当然、すべての情報や事実を分かったうえで審査判断できるわけではないし、規定そのものが政治的判断によるもので、ケースに適用したとき不合理な結果となる場合もある。そう言った事案では、政府や行政と異なる独自の判断をできる司法への異議申し立てが行われ、現に申し立てられたケースの13%は申請者の有利となるよう覆されているとのこと。

 

 紹介された人々は落ち着いたケースが多く、これが審査のすべて、またはアベレージとは思わないですが、少なくともその一端を見れたと思います。

 肯定的に判断されたケースでも、見方によってはドイツにとってのリスク、あるいは財政への負担となる。しかし彼らのこの先の生活や仕事、学問にとって必要な判断であることも間違いない。ここで認められた人々のその先も見れるなら見たいと思いました。