arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

響け!ユーフォニアム1・2感想

1、作品について

 武田綾乃の小説原作。京都アニメーション作製。監督石原立也、脚本花田十輝、キャラクターデザイン池田晶子、音楽松田彬人。第1期2015年4月放送、第2期2016年10月放送。

 吹奏楽部を舞台に繰り広げられる青春群像劇。1期の段階では見ていませんでしたが、評判がいいと聞いて2期から視聴し、ドハマリしました。1・2期、原作踏まえての感想です。

 

2、ネタバレなし感想

 友人におススメされていたのですが、正直最初は興味がありませんでした。その理由として、女子の部活ものって『ちはやふる』とか『あさひなぐ』でかなりの要素を描かれ切っていると当時思っていて、あたらしく感動を得られると予想していなかったこと。また、京都アニメーションは素晴らしい作画で有名ですが、あまりにも登場人物全員美男美少女すぎて、商業的な側面が強いと偏見を持っていたこと、がありました。しかし、2期4話くらいまでみて、想像以上に女子高校生間の面倒くさい人間関係を突っ込んで描いていることに惹かれ、1期に遡って全話視聴し、原作も全巻読んでBD揃えるくらい(アニメのBD買ったの初めてだった)ハマりました。

 大筋としては弱小吹奏楽部の部員たちがカリスマ顧問の登場で意識を変え、全国大会を目指していく、という王道部活ものなのですが、個人的には本作はスポ根アニメではなく、ヒューマンドラマに分類されると思います。美化されがちな「青春」について、その負の側面をちゃんと描くことで、人間関係にリアルさと魅力が宿っていました。だからこそ描かれない部分や描かれた部分のより奥の感情を想像したくなる、そんな作品だったと思います。おっさんたちが頑張ってる若者を見て「青春だね~」と片づける感覚に全力で反抗するような作品だと思います。それでいて、ひねくれずに、青春の陰の部分と陽の部分を、とても真摯に描いていました。

 また、ヒューマンドラマで演奏ものならアニメーションでなく実写でいいじゃんとも思えるんですけど、本作はアニメのようにデフォルメされた世界観でないと成立しないと感じました。それは演技力の面で、ティーンの心情を大人(作画スタッフや声優さん)が大人として理解した上で鮮明に絵や声で演じることが可能な媒体だからというのもあります。でもそれ以上に、上手く表現できませんが、女子高生特有のささいな動きや瞳の演技が、作画や照明でとても鮮やかに描き出され、無駄な情報を含まずにニュアンスをストレートに伝えてくれる感じがするんです。アニメだからこそ出せる色みや美しさが存分に発揮されていて、それが各登場人物の心情を見事に映し出しているような印象を受けました。京都アニメーションさん、凄いなぁ。

 

 

 

 

3、ネタバレ全開語り

 

京都アニメーションが思春期を描くことに本気すぎる

 2期4話をみて、正直みぞれの「希美の一番になりたい」って感情は多くの人にとっては「いや、どうでもよくね」「理解に苦しむ」っていう感情だと思いました。私も正直、わ、若いなー、と若干引き気味で見ていました。でも女友達間でのそういう感情って確かに思春期には存在するんですよね。誰にとって誰が一番の友達か、みたいな。でも通り過ぎて大人になると、どうでもよくなる。そういう、思春期特有の感情を、武田先生と京アニさんは全力の熱量で描き切っていた。そのことにとても感動しました。青春の悩みとか感情の熱量って、他人にはなかなか測れないし、上の世代にはただの通過点としてあしらわれがちだと思います。だからこそ思春期の女子たちの感情の機微を一点も逃すまいという制作側の姿勢みたいなものが伝わってきて、凄く尊敬できるなぁと。

 絵もめちゃくちゃ美しいですよね。リアル路線の作品だけど、ファンタジーのような色味と繊細な線が詰まっていて、あの世界が一番美しいんじゃないかなと錯覚します。音楽についても、BGMのみならず、1期のオーディションの音で差を表現するシーンや、大会での演奏シーン、部員たちの練習シーンや各キャラ単独の演奏シーンなど、様々な場面で音が演技していて、作品を彩っていました。2期5話の演奏シーンは多分後々もアニメ史に残りそうですね。残ってほしいです。

 

・見ていて楽しい話じゃないが面白い

 そもそも久美子自身が主人公気質というより、流されやすい子というのが本作最大の特徴かもしれないですね。本気でやって負けた時に「本気で全国いけると思ってたの」とか言うような奴、普通の作品なら敵キャラのモブA子とかですよ。それを、本気になれない、何かに焦がれて主体的に懸命になれない子を主役にすることで、周囲の尖った人がどれも魅力的に思えてくる。今思うと物語としては最強の主人公なんじゃないかと思います。探偵気質もあるし。

 でも、普通の部活ものではあまり描かれない部分にスポットライトを当てている分、見ていてしんどい面も沢山あります。葵ちゃんは吹奏楽やテナーサックスを好きなはずなのに部を辞めてしまう。それ自体話としては何も喜ばしくないんだけど、現実そうなるのはとても納得できます。視聴者は秀一が久美子を好きな事を知りつつ葉月のような良い子が勝ち目のない戦いに明るく挑んで玉砕する流れを見なきゃいけないし、折角頑張り始めた夏紀は大会に出られないし、あんなにマジエンジェルで報われてほしい香織先輩は圧倒的な実力差を見せつけられて負けるし。でもどれも、苦しいけど見ていて凄く心を動かされるなと思います。楽しさだけがエンタテイメントじゃない、ビターな面白さを随所に含んでいるからこそ、この子たちの報われる未来が見たいし、応援したくなるんですよね。

 

・3年生4人の魅力

 ユーフォはどのキャラクターも魅力的ですが、個人的には3年4人の人間関係が一番好きでした。1期7話で晴香があすかに抱えるコンプレックスが爆発し、そこから香織の優しさ、あすかの人間性と、どんどん面白い側面が見えてきた気がします。それまで明るく面白い身近な先輩だったはずのあすかの人物像が、7話の廊下のシーンで一気に反転する。その先もあすかの異様さをユーフォという作品全体の背骨にしながら物語が進んでいったことからわかるように、田中あすかはあの高校という環境で明らかに特別な存在でした。

 そんな圧倒的特別を同期に持ってさらに上の立場を与えられた晴香は、まぁ大変ですよね。晴香自身、自分が部長だという意地はあっただろうし、あすかと能力を比べて生きていた期間はかなり後ろ向きでした。でも、晴香には周囲や友人を想う優しさがあって、それはあすかには欠けている部分だった。だからこそあすかを支えることができる。2期7話のバリサクソロで魅せた決意の格好よさといい、本当に立派に、いい部長になったなと思います。

 香織は1期では非の打ちどころのないエンジェルでしたね。容姿性格完璧で人望もあり、オーディション騒動で負けの美学みたいな哀愁まで漂わせていて、もう天使以外の言葉が見つかりませんでした。でも、原作ではより強く描かれていましたが、香織のあすかに対する憧憬は一線を越えたレベルですね…。好きすぎるゆえの盲目さで無意識にあすかの神経を逆なでしている、という構図が2期では現れてきて、なんとも哀しかったです。あすかと香織の関係は、香織の要素として非常に重大な面として描かれているけど、どうも香織の好感度を下げかねなくて深入りしちゃいけない感がある気がします。でも、個人的にはこの2人のこの先の関係を見てみたいです。完全に妄想ですが、あすかが憧れを抱きうる存在がいるとすれば、それは香織なんじゃないかなと個人的には思います。あすかにとって一番好きな人は多分自分かお父さんで、とすればあすかの理想は「父親が求めるような娘像」なのかなと。でもあすかは美しい性格の人ではなく穿った性格を身につけてしまっていて、そういう部分を自分自身で自嘲している節があります。香織はその点、本当に美しい性格の持ち主で、そういう人になれれば良かったなという思いが、あすかには少なからずあるんじゃないかなという気がしました。

以上、妄想失礼しました(^^; なんにせよ香織には幸せになってほしい。

 葵については、短編『あの子には才能がある』が衝撃でした。彼女が部を辞めた最大の理由はあすかへのコンプレックスだということですよね…。高校入学まで自分を天才だと思っていたからこそ、本物の天才あすかを特別と割り切れず同じフィールドで戦ってしまったことが、葵ちゃんの不幸だったのかなと。第一志望に受かっていてほしいと願わずにはいられません。葵も成績がいいので、状況が違えば葵はあすかにとって勉学面で張り合う良い仲間になれたかもしれないし、引退後少しでもそういう関係が芽生えていたら良いなと思います。

 

・2期9話

 凄い回がたくさんあったユーフォですが、個人的に全話通して一番印象的な回はこれでした。この時点では既に原作を3巻まで読んでいたので、話は知っていて、かつ作品にとって重要な回ということも知っていたんですが、期待を余裕で飛び越える密度の演出と作画熱量で圧倒され、これまで味わったことのない満足感と余韻に浸った回でした。

 原作でもそうですが、本作であすかはラスボス兼裏主人公みたいなキャラで、そのメイン回です。でも形式だけ見ると、1期山場のオーディションみたいに特別なことが起こるわけでもなく、ただ家に来て喋ってユーフォ吹くというだけなんですよね。その分、どうやって話の重要さを伝えていくんだろうと放送を楽しみにしていました。そしたら、まず序盤から濃い演出が詰め詰めでしたね。本心を聞く久美子に返答する鏡に映る夏紀や、麗奈のステップ、各カットが意味深すぎる靴紐結びに、素足と靴での演技、クッキー選びを迷う仕草、画面反転などなど…コンテの石立さんの全開っぷりが凄まじく、画面の情報量が多くて、どうやって重要さを伝えるんだろうとかいう素人の懸念は一蹴されてしまいました。ラストの演奏シーンは線の多さも色彩の美しさも動きの繊細さも素晴らしくて、ユーフォの音って美しいんだな…とただひたすら余韻にひたってしまいました。

 幼いころ別れた父親い聞いてもらうためにずっと楽器をやってきたという字面だけみれば美しい親子愛ですが、2歳の娘をあの母親のもとに置き去りにして居なくなっといて、自分がユーフォを始めた小1の年齢になった娘にユーフォと自作の曲を送り付けて放置って、客観的に見てどうなんだと思います。実際、進藤さんっておそらく理想の父親像とは大分遠い人なんじゃないかな。ユーフォニアムだって、あすか自身自分に似合わないと自覚しているし、本来やりたいことは別にあったのかもしれない。それでもあすかが父親(=ユーフォ)を想っているのは、そこにしか気持ちのはけ口が無かったからなんでしょうね。7話の職員室でのシーン(原作ではさらにハードであすかは倒れる勢いで引っぱたかれてるし、その後母親はあすかが自分のことを嫌いなんだろうと喚き散らす。それに対してあすかは「何があっても嫌いにならない」となだめる、という描写になっていました。)からわかるように、母親は離婚やシングルマザーの苦悩とあすかとの関係が良好でないことで精神バランスを崩している。毎日あの母親と二人の空間で生きてきたら、普通グレると思います。それを上手くやっていくために処世術を身につけて、ユーフォという目的を定めて勉強も家のこともそのための手段としてこなしていくというスタイルでストイックに努力を続けられるあすかは、非常に優れた人物だと思います。久美子を家に呼ぶ流れについても、おそらく9話の終わりの段階で全国を諦めきるために、感情のはけ口が必要と判断し、それに最適な人物として久美子を選んで話をすることで、自信の精神バランスをコントロールしたんでしょう。そんなこと17歳でできるって脅威だなと。それと同時に、とても可哀想だな、と思いました。10話で久美子がそのバランスを崩しに飛び込んでくれて、本当に良かったと思います。

 

 

4、その他

 立華高校編。原作の上下巻を読みましたが、お話としては正直北宇治より面白いんじゃないかと思います。特に佐々木梓のヤバさ(驚嘆を通り越してもはや怖い)と、先輩陣の人格者っぷり(幹部+未来先輩は就活したらどこの企業からも引っ張りだこでしょうね。)、後半のアツさに、泣きました。強豪校ならではの凄みと充実感が詰まっていて、とても好きな作品でした。