arukikkuの日記

映画、ゲーム、小説、漫画、アニメ、などの感想。独断と偏見で好き勝手に書いてます。

ドラマ『カルテット』感想

1、作品について

 TBSにて2017年1月17日から3月21日まで放送されたテレビドラマ。製作総指揮は土井裕泰。演出金子文紀、坪井敏雄。プロデューサーは佐野亜裕美。松たか子満島ひかり高橋一生松田龍平出演。

 逃げ恥の後枠で始まったドラマ。30代の4人の俳優と坂元裕二の脚本による、ラブストーリー、サスペンス、コメディーなどの要素を交えた、「ほろ苦くて甘い、ビターチョコレートのような大人のラブサスペンス」。完全オリジナル。


2、ネタバレなし感想

 主演4人の豪華な顔ぶれに期待大で見始めたのですが、気づいたら忘れられないドラマになっていました。ネタバレなしで感想を書くのが難しい。

 一番の感想は、とても優しいドラマだなということです。メインの4人はカラオケボックスである日出会い、カルテットを結成して共同生活を始めるんだけど、全員30代で音楽では全く成功していない。音楽一家の中で自分だけ普通の会社員の別府さん、35歳でアルバイトの家守さん、無職のすずめちゃん、主婦のマキさん。肩書だけでなく、生活態度をみてても、いわゆるダメ人間と言われる人たち。脚本の坂元さんが、そんな4人の何気ない会話から人となりを描き、それぞれの負っているものをとても温かく包み込んで、4人を全力で肯定しているような、そんなドラマでした。

 まず4人の演技だけでも見る価値があるというか、こんな素晴らしいものを毎週見せていただいてありがとうございますという感じでした。私は松たか子さんが大好きですが、マイベスト松たか子は本作になりました。脇役もゲストも味のある役者さんで、キャスティングが神ってるとしか言いようがない。これだけのキャストを集められるのも、脚本坂元さんへの信頼と、プロデューサーさんの手腕なんでしょうかね。凄い。

 ED曲は椎名林檎作詞作曲でまさかの4人が歌っています。そのED映像が大人の格好よさ全開で、本編の4人とのギャップにやられる。世の中白黒つかない、グレーなことがあるという本作のテーマに寄り添った、とても素敵な楽曲だと思います。

 サスペンス要素、貼られまくった伏線、セリフの面白さ、結婚観、音楽など、魅力をあげればキリがないですが、嘘をはらみつつも確かに築かれていく4人の恋愛とも友情とも異なる不思議な関係を、とても愛おしく感じました。 

 また、今の社会や固定概念に対する反逆が随所に込められているように感じました。何かしら生きづらいことがある人には、とても響くドラマだと思います。

 

3、ネタバレ全開感想

・「悪」について

 最後まで悪人のいない、また、一般的に悪いことを悪としない作品だったと思います。その中でも特に印象的だったのは、3話の父親の死に目に会いに行かないすずめちゃんと、それを肯定するマキさん。親の死に目に会いに行かないのも、親を恨むのも、まして親を殺した(かもしれない)ことも、一般には悪いことです。でも、実際はそんなに黒と割り切って終われるものではない。その部分を描いて人と人との繋がりにする坂元さんは、本当に優しい作家さんだなと思いました。

 また、マキさん自身も父親を憎む気持ちを知っているからこその、必然からでた「いいよいいよ」だったのだけど、この時点ではすずめはそのことを知らない。けれど出会ってまだ間もないはずのマキさんにそういう気持ちをちゃんと受け入れてもらえたことで、すずめちゃんは救われる。そして後に父殺しの疑いを持たれるマキを、今度はすずめが助けに行く。この二人が出会えて良かったなと、心から思える場面でした。

 ありすは作中最も尖った役でしたが、人間関係よりも金を優先しまくった彼女も、生活苦にある背景は実家のシーンで描かれているし、地下アイドルの経歴などちゃんと描かれていないグレーな面がありすぎて安易に憎むことができない。彼女のおそらく目指していたであろう経済的裕福を最終回では達成したみたいですが、別にそこで人生終わってくれるわけでもないので、この先どんな苦難が待ち受けているかわからない。本当に死ぬ間際に「人生チョロかった」って言えたら凄いですけどね。何にせよ彼女も黒と割り切れない、そして底知れない人物でした。

 マキの母親が亡くなった件についても、加害者がほとんど非のない少年であったというのが、加害者=悪の構図を強く否定しています。加害者と被害者については『それでも生きていく』で描かれていましたが、現実でも加害者が悪かったからと割り切れない事件は多々あり、報道や結果だけでわかる事なんてもの凄く小さい。けれど大抵世間はその割り切れない部分には目を向けようともせず、表面だけみて物事を決めつけて責めてくる。しいて言えば、その無責任さと罪深さだけは、確かな悪として描かれていたように思います。

・夢と趣味

 夢って小さいころは漠然としているから輝いているけど、本当に迫ってくると色々な面が見えてきて、そんな輝かしいものでないと気づいてしまうものだと思います。本作でも、大ホールで演奏の機会を得た4人が、直前で振りを依頼されるシーンがあります。彼らが抱いていた音楽で生きていくという夢を現実に落とし込めば、こういうことも通らなければならない道としてあったわけで、夢が音楽を仕事にすることである以上、割り切ってほんの一握りの本当に輝かしい夢のステージへの糧にするか、趣味にするかの2択しかない。夢を趣味にするタイミングというのは、きっとそういう両面を踏まえて納得のいった時だろうし、ある面では確実に「より良い」選択なのだと、一連のシーンをみていて思いました。

・終わり方について

 4人の顛末を見ると、別府は無職になったし、家守はバイトだし、すずめちゃんはまだ定職につけてないし、マキさんは離婚したし、世間的に4人は散々な評判で、何かが解決したのかといえば、正直何一つ解決していない最終回だったと思います。4人の生活がこの先本当に続くのか怪しいし、それでいいのかとも思う。でも、今や4人それぞれがそれぞれのことを心底想っているし、多分それは嘘とか他者の言葉とか立場とか、そういうものから壊されることのない真実の関係で、人生における本物の幸福なんじゃないかなとも思います。